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電源の仕組みはこうだ!理解できれば良し悪しも分かる。これで目指せ電源マイスター

デスクトップPC用の電源は、少なくとも500W程度。60WのACアダプタなら少なくても9台は必要だ

 なんでデスクトップPCには、でっかい電源が必要なのか? 「いや電源なかったら動かないでしょ? 」という突っ込みが聞こえそうだが、「ノートPCのようにバッテリとACアダプタで駆動すればいいじゃん! 」というご意見も。ごもっとも!

 デスクトップは移動しないからバッテリは不要として、ACアダプタで動かすデスクトップPCもかつてはあった。というかミニPCやベアボーンはACアダプタで動いている。ご存じの通り「ACアダプタ」は電池の代わりとして使えるもので、コンセントの交流(AC)を直流(DC)に変換して、「DCジャック」や「DCプラグ」に供給する。

 しかし今のデスクトップPCはATX電源、小さめのPCでもATXの小型版SFX電源が必要。なぜならCPUやマザーボードはコスパがいい「電気は食うけど高速」なタイプが使われ、何よりビデオカードが猛烈に電気を食う。ACアダプタだとPCを1台動かすのに複数台ACアダプタをつながなきゃならないので、とても不便だ。

ACアダプタは、コンセントの交流電源(AC)を、乾電池と同じ直流電源(DC)に変換する。プラグを「DCジャック」、「DCプラグ」というのはそのため

 だからデスクトップ用のハイパワーな電源が必要。しかし、機能的にはACアダプタと変わらずコンセントの交流100Vと、PCが必要とする直流の12V/5V/3.3Vを作るだけ。とはいえ1万円以下で買えるものから、数万円するものまである。つまり電源の良し悪しはワインのテイスティング並みによく分からない。

 この記事では、電源を見てその仕組みを解説しながら、「電源のテイスティング」ができるようなポイントを押さえていくことにしよう。

ATX電源の内部。この記事を見たあなたは「電源マイスター」。回路を見ただけ、レビューを呼んだだけで電源の良し悪しを見分けられる

 この記事を読めば、大まかな電源の仕組みが理解できるようになるはずだ。これでほかのレビュー記事を読んだり、海外の電源評価のサイトで公開されている内部を見て「あ~、なるほどね! 」と自分でも評価できることを目指したい!

PC用電源は大まかに9ブロックで構成されている

 PC用電源は大まかに9つのブロックに分かれている。そのためまずはざっと流れをおさらいして、その後詳しく解説していこう。

電源全体のしくみはこんな感じ

1. コンセントからの入力

入力: 交流100V(エアコン用の200VでもOK)
処理: 緩やかな立ち上がり、ヒューズ
出力: 交流100V(エアコン用の200VでもOK)

コンセントのケーブルを接続する裏側。高い電源だと基板に部品を乗せてシールドしているものもあるが、たいていはむき出しの部品が基板を使わない空中配線になってる

2. ノイズ除去

IN: 交流(ノイズ入り)
処理: ノイズフィルタ
OUT: 交流(ノイズ低減)

コンセントの電源に乗ってきたノイズを除去する。大体どの電源も同じだが、安いモノだとスカスカな場合も。PLCや工場で使っている場合は注意

3. 交流→直流変換(整流回路)

IN: 交流(100~240V; 世界対応)
処理: 交流→直流へ変換
OUT: 不安定な直流

ここは熱が出る部分なので、ヒートシンクで熱対策しているものがオススメ

4. 省エネ対策回路(PFC回路)

IN: 電流の不安定な非効率な直流
処理: 電流を平均化して効率よくする
OUT: 効率60%→ほぼ100%にアップした200V程度のほぼ直流

80PLUS認証を取得している電源は、高効率のActivePFC搭載。ACアダプタだと単なるPFCが多いのでATXの方が省エネ性は高い

5. 1次側平滑回路

IN: 効率アップした高圧の直流
処理: 電解コンデンサで滑らかな直流にする
OUT: 高圧の滑らかな直流

コンデンサは熱に弱いので、なるべく放熱器から放してある方がいい。また国産の耐熱105℃仕様のコンデンサがベスト。日本ケミコン(茶)、ニチコン(黒)、ルビコン(黒)、日立(青)など

6. 12Vへ電圧降下回路(トランス&MOS-FET)

IN: 滑らかな直流
処理: 一次的に交流にしトランスで電圧を下げる
OUT: 電圧12V程度の交流

2023年あたりから劇的に電源が小さくなったのは、トランスと呼ばれるこの部分が小型化されたため。電源で一番熱を出す部分なので、しっかりした放熱機を備えているものがオススメ

7. 12V直流化回路(2次側平滑)

IN: 12V程度の交流
処理: コンデンサやコイルを使い滑らかな直流に変換
OUT: 12Vの直流

電源のキモになる部分なので、国産の耐熱105℃仕様の電解コンデンサ、アルミ固体コンデンサを使っているものがオススメ。またコンデンサ自体が発熱するので、基板に放熱器を設けているとベスト

8. 12V→5Vと3.3Vに変換

IN: 12Vの直流
処理: DC/DCコンバータで12Vを5Vと3.3Vに降圧
OUT: 5V、3.3Vの直流

ほとんどが別基板になっているので、あまりポイントはない

9. ATX、EPS、PCI Expressに割り振り

IN: 12V、5V、3.3Vの直流
処理: コネクタのピンごとに電源割り振り
OUT: PCへ

プラグイン方式の場合は、コネクタごとにコンデンサがついているのが望ましい

 それではここからは、AC入力からマザーボード出力まで、順を追って「何をしているのか」を解説するとともに、電源選びの「ポイント」を解説していこう。

1. コンセントからの入力: 金属などで囲っている電源がベスト!

 まずはコンセントから電気が入ってくる部分。ここでのポイントは、コンセントの指し込み裏が金属のボックスや銅箔で囲まれている電源がいい。これは電源外部から入ってくるノイズではなく、電源内部で高速に半導体がスイッチをオフ/オフするスイッチングノイズを減らすため。家庭の照明のスイッチを頻繁にオン/オフするとときおり青白く光るのとほぼ同じこと。

 現在発売されている電源のほとんどは4)のPFC回路を持ち、100〜240Vのワールドワイドで使える電源だが、極まれに100V専用のものもあるので注意。なおワールドワイド用の電源なら、エアコン用の200Vを入れても使え80PULSの省エネ性も高くなる。しかし電源コードの入手も難しく、メーカー保証外になるので注意。

 ここのポイントは「突入電流」の対策がされているかどうか。突入電流は、消費電力の多いレーザープリンタのメイン電源を入れると、部屋の照明がフワッと暗くなる現象。大出力の電源は、コンセントまわりに、次の写真のような部品がついていればOK。

おそらく左側の逆向きについているのが突入電流を抑止するPTC。上部の緑は電源スイッチを入れたときに火花が飛ばないようにするスパークキラー、右側の緑はおそらくコンセントからのノイズを減らすライン(EMI)フィルタ。この部分が金属で囲ってあるとなおよい
PTCやNPCサーミスタという素子が入っていると、立ち上がりがゆっくりになって照明が暗くなることはない。最近の電源にはほとんど搭載されている。コンデンサに似ているが「103」のような数字以外にもいろいろ刻印されているのはだいたいPTC系。箱型もある

2. ノイズ除去: ノイズの多い環境ではノイズフィルタ付きのOAタップで自己防衛

 次にコンセントを経由して入ってくるノイズを除去する回路。あまりにもノイズが多いと、最悪の場合PCが誤動作する可能性もある。必ずしも自宅の中にある機器がノイズを発生するのではなく、隣近所のノイズが電柱を経由して入る場合もある点に注意。

 20年ほど前だが、隣の家の掃除機が大きなノイズを出して、近隣の電子機器が誤動作するという例があった。同様に近所に落雷したとしても電柱を経由して自宅コンセントに入っている場合があるので注意。

 なお、ラジオが聞こえないぐらいにノイズを拾ったり、PLCというコンセントをLANケーブル代わりに使う場合は、コンセントとPCの間にフィルタ入りのOAタップを入れるなどするといい。

コンセントを有線LANのケーブルとして使う「PLC」や工場内で使う場合は、コンセントと電源の間に「ノイズフィルタ入りのOAタップ」を入れるといい。通販だとOA用と音楽用があるが、どちらも同じか、やや音楽用の方が高性能
法改正で屋外でも利用できるようになり、工場や外構、工事現場などでも利用できると再び脚光を浴びるHD-PLC

3. 交流→直流変換(整流回路): 交流の谷を折り返して大まかな直流に変換

 冒頭の説明の通り、コンセントの100Vの「交流」を、乾電池と同じ12Vや5Vの「直流」にするのが電源の役割。そのためまずは電圧には手を付けず、交流を直流に変える。交流は写真のような波を繰り返すので、これをダイオードという半導体を使って谷になっている波を山側に折り返す。

交流はプラスとマイナスの電気が周期的に切り替わる。非常に面倒な電気だが、遠くにある発電所から自宅まで送電するのに非常に便利。もし直流で発電所を作ると、町内や市内に1カ所の発電所が必要になるほど
直流はプラスとマイナスの電気が入れ替わらないので、一直線状になる。ただ交流を一気にこの状態に持っていくのは大変なので、まずマイナス側にある谷をプラス側に折り返す

 このダイオードは発熱するので、高価格な電源ではCPUクーラーのようなしっかりした放熱器が付けられていることが多い。少なくともアルミの板を1枚貼ったものが実装されている。

 ただ最近はUSB ACアダプタに使われる「GaN」などの新しい半導体が登場し、発熱量が少ないタイプが実装されている場合がある。放熱器の良し悪しで、電源の良し悪しが決まるというのはなくなりつつある。

 山を折り返したあとはコンデンサという部品を使って、山と山の間の谷をできるだけ少なくする。このコンデンサは電源の中でも重要な部品なので詳細は後述しよう。

谷になっていた部分をできるだけ平坦にして、電圧を安定させる

 なお電源選びにおいては、この回路が性能を左右することは少ないので、基本スルーでもOK。

4. 省エネ対策回路(PFC回路): 必ず「Active」が付くPFC回路搭載の電源を選ぶ

 大まかな直流をそのまま利用すると電圧はほぼ一定になるが、電流が不安定で非効率になるため、電流を平均化して、より安定した直流を作るのがPFC回路。この回路がない場合は変換した電力の60%程度しか有効に使えないが、PFC回路を入れることでほぼ100%まで有効になる。

 PFCはPower Factor Correctionの略で日本語にすると「力率改善」となり、力率=有効に使える電力を増やす回路だ。

 PFC回路にはいくつかタイプがあるが、最も有効なのはActivePFCというタイプ。

パッケージはホームページで「ActivePFC搭載」を明言している製品がは多い

 電源選びのポイントは、省エネ性の高いActivePFC回路を搭載しているものを選ぶこと。省エネ性を謳う80PLUS Silver以上であれば、ほとんどActivePFC回路を持っている。格安の電源やACアダプタは「Active」が付かないPFC回路のため省エネ性が悪くなる。

PFC回路とは?

 PFC回路をもう少し詳しく説明しよう。ただややこしい話になるので「なるほど! 分からん! 」という場合は、次のステップまで読み飛ばしていただきたい(笑)。

 1つ前の工程の整流回路では、下に向かった波の谷を折り返し、連続する山を作った。

整流回路で山を折り返しプラスの電圧だけにした状態。谷部分は元々0Vだったので電流(黄色の棒グラフ)が流れておらず、山の部分のみ電流しか使えず有効な電力は60%ほどになってしまう。加えて波のズレがある

 この波の縦軸は電圧を表わしているので、最大の山は入力電圧の100Vになる(実際には山が均された電圧がコンセントの100Vなので、ならす前の山は141V程度。ややこしいので100Vと考えてもOK)。すると山と山の間にできた急な谷は、よく見ると0Vになる。つまり電流が流れていない状態だ。でも山の頂上ではよりたくさんの電流が流れる。

 後段の1次側平滑回路では、この電圧の山を平均化して、そこそこ安定した直流にしてくれる。しかし前段の整流回路では山の部分では大きな電流が流れ、谷の部分ではほぼ電流が流れない。「PFC回路がないと60%の電力しか有効に使えない」というのはこのため。波形の山の部分の電流しか使えないからだ。

 PFC回路は複雑なことをしているが、イメージとしては「山の高いところにある大きな電流を、PFC回路というブルドーザーで谷をならして行く」と思っていいだろう。こうすると電流が平均化されるので、確保できる電力(=電流×電圧)が安定し、ほぼ100%に近い電力を有効に使えるようになる。めでたしめでたし。

話しを簡単にするため、電圧の波形は山と谷の連続があり状態で進めて来たが、実際には電流は電流で均一化、電圧は電圧で荒く均一化している。これにより電圧の波形と電流の波形のズレを正し、0V以外の場所でも電流が流れるように補正する。これで波の0V以外の領域、約100%で電力(電流×電圧)を活用できる

 ちなみにPFC回路にはいろいろな種類があるのは、先のブルドーザー式だったり、大きな電流を細かいパケットサイズに切り刻んで、谷に落とすベルトコンベアタイプなどがある。部品で言うとPFC回路にある「チョークコイル(フェライトに電線がグルグル巻いてあるヤツ)」や最近だと「2cm角の黒い四角い部品(機能はチョークコイルと同じ)」が、ブルドーザーの役割をしている。

 学問的に見ると異論があるかもしれないが、このぐらいのイメージで理解できれば、前段の整流回路とPFC回路、そして後段に1次側平滑回路の間がつながるはず。厳密に知りたい方は専門のページなどをあたっていただきたい。ごめんなさい!

 「なるほど分からん! 」という方でも問題なし! 要は電源選びでは「ActivePFCが搭載されているものを選ぶ」というのが本質。搭載していなかったり「Active」じゃないヤツは省エネ性が低い。

 またワールドワイド対応の電源の場合は、以降の回路を世界で共用するために、ここで電圧を240V程度に引き上げる。

5. 1次側平滑回路: 大きなコンデンサは熱源からの距離と耐熱温度に注意

 電流と電圧をほぼ安定化させたあと、さらに大容量のコンデンサを入れてより安定化を図る。ほとんどの電源は100~240Vのワールドワイドに対応しているので、1次側平滑回路は400V程度の高電圧対応のコンデンサを搭載している。

 「1次側」とは、後段の12Vへ降圧する前のことを示し、12Vに降圧したしたあとのことを「2次側」とする。電池と異なり、充電できない「1次」電池と、充電できる「2次」電池とは違うことに注意。

ActivePFC回路の横には、必ず大きなコンデンサが搭載されている

 またこのコンデンサは、出力が大きい電源ほど大容量のコンデンサが搭載されている。出力500W前後であれば400~500μF(マイクロファラド)が標準的。また瞬間的な停電でも安定した電力が供給できるように、超小型のUPSとしても機能する。

 PCを「コールドスタート(電源を抜いて再起動)する時には、数分待ってから電源を再投入すると良い」と言われるのは、このコンデンサに溜まっている電気を完全に放電させるため。電気がまだ溜まっている状態で、電源を再投入するとリセットボタンを押したホットスタートになってしまうからだ。

ポイントはMOS-FETのヒートシンクとの距離。密着しているのは寿命が短くなる恐れがある
コンデンサに明記されている耐熱温度が105℃のものは長持ちする。85℃で熱源に近い電源は寿命がちょっと心配

 電源選びで注意するのは、後段で使われる最も熱を帯びるMOS-FET(パワートランジスタ)との距離と、コンデンサ自体の耐熱温度、そしてコンデンサのグレード。標準的なコンデンサには85℃と105℃タイプがあり、コンデンサは熱に晒されると劣化が速くなる。

 さらにコンデンサには寿命があり、1次側で使われる標準的なコンデンサは3,000時間となっている。想定温度より10℃高いと寿命は2分の1、10℃低いと2倍長持ちするので、「熱源から離れた場所に耐熱温度105℃のコンデンサを搭載していると電源」が長持ちすると言える。

 最近では回路が工夫され、MOS-FETの放熱器と1次側のコンデンサが離れている製品も多くなっているが、多くの電源では放熱器とコンデンサの距離が数mm、ひどいと接触していることもあるので注意したい。

 またコンデンサのグレードは寿命に直結する。ハイエンドな電源には5,000~1万時間の長寿命タイプが搭載されている場合がほとんどだ。これにより電源自体の寿命も長くなるので、強気の長期保証がついていたり信頼性が高くなる。

 家電の多くは「寿命」が設定されているが、コンデンサの寿命に起因することが多い。コンデンサを配置する場所の基板の温度を考慮し、数年経つと壊れる「タイマー」を仕掛けることも可能。

6. 12Vへ電圧降下回路(トランス&パワー半導体): 電圧を下げるためもう一度交流化

 2023年あたりから進化の激しいのが12Vへの電圧降下回路。ここの主役はMOS-FETという半導体とトランスだ。

 トランスの役割は入力電圧を上げたり下げたりできる部品。自宅前の電柱上に円筒形のモノが乗っているがこれもトランスで、電柱の6,600Vと家庭用の100V(200V)に引き下げて送電している。

電柱の送電網は交流6,600V。これをトランスで交流100V(200V)まで下げて宅内に引き込んでいる。カラスが止まっているのが6,600V、その下が電圧を落とすグレーのトランス、その下の縦3本の線が100V。各家庭に分岐しているので、ここは電線がグチャグチャ
電源の中のトランスは四角い部品。鉄心に2つのコイルが巻かれており、コイルの巻き数で目的の電圧まで下げている

 仕組みの詳細は割愛するが、「コイルに磁石を近づけたり離したりすると電気が流れる“誘導電流”」を使っている。入力側のコイルの巻き数と出力側の巻き数を変えることで、その比率によって電圧を上げたり下げたりできる。

 しかし「磁石を近づけたり離したり」しないと電圧を制御できないので、ここまでキレイにしてきた直流だが、もう一度交流(実際には0と1のパルス状)にする。そのために使うのはMOS-FETという半導体。トランジスタの一種で大きな電力を扱える、半導体スイッチだ。

 ここ数年のMOS-FETの進化も激しく、より高速にスイッチをオン/オフできるようになったため、小さいトランスでも大電力を出力できるようになった。

 2020年以前の電源には「12Vの回路が3レーンある」などの記載があり、MOS-FETの数がそのままレーン数になっていた。最近は複数のMOS-FETを並列に使っているので、1(シングル)レーンが主流になっている。

昔の電源は12Vが何レーンもあったので、偏らないように電力配分するのが面倒だった。今は電力配分を考える必要なく便利になった。写真は4レーンあり、それぞれが18A(216W)を越えないように、電力分配を考える必要があった

 2020年ぐらいまではフルプラグインコネクタ仕様になると奥行が150mm前後と大きかったが、2023年になると700Wの出力でも120mmほどのコンパクト電源になっている。これはMOS-FETの進化が大きく影響しているためだ。

 また先にも説明した通りMOS-FETに変わって高効率で低発熱、高出力SiCやGaNの半導体に置き換わっていくのは明らかなので、ファンレスやショーティー、かつ省エネな電源が登場するハズだ。

格安電源だとアルミの板を1枚貼っただけの放熱器もあるが、CPUクーラーのように表面積が多い放熱器でガンガン冷やせば、隣のコンデンサが熱くならず、より長寿命になる

 ここでの電源選びのポイントは、発熱量が多いMOS-FETの放熱対策。なるべく表面積が大きいヒートシンクで、まわりに実装されているコンデンサから離れているものがいい。あと数年すると、半導体の種類がSiCやGaN系かというのもポイントになるかも? もしくは80PLUSのさらに上位クラスが登場するかも知れない。

7. 12V直流化回路(2次側平滑): 耐熱105℃の電解コンデンサ+アルミ固体コンデンサの併用がベスト

 電圧を12Vまで降下させるため、MOF-FETで交流にした電力は、PCで使う直流に戻さなければならない。そのためには整流回路で使ったダイオードやコイル、そしてコンデンサを使って直流に変換する。これらをまとめて2次側平滑回路と呼ぶ。

 電源選びの最重要ポイントとなるのがコンデンサだ。まずは耐熱温度が105℃タイプを選ぶこと。2次側は高周波なので熱を持ちやすいので、コンデンサまわりの基板に放熱器を付けると、より安定してかつ長寿命になる。また型番も分かるようであれば「低ESR」や「超低ESR」タイプを選ぶと、コンデンサ内部の抵抗が少ないので発熱も少なく、キレイに平滑できる。

2次側平滑回路は、電解コンデンサとコイルで形成される。高価な電源だと「アルミ固体コンデンサ」も併用される。写真では茶色が電解コンデンサ、青い印刷がある小さい円筒がアルミ固体コンデンサ。導線が3周巻いてあるのはチョークコイルと呼ばれるもので、これも滑らかに平滑するのに重要な部品

 またちょっと大きめの電解コンデンサと、小さい円筒状のアルミ固体コンデンサがあるが、2タイプを併用しているものがベストだ。アルミ固体コンデンサはキレイに平滑できるのだが、価格が高いのでコスト重視の電源には使われていない。

 また、よく電源のパッケージに書かれている「日本製コンデンサ」を採用しているものを選びたい。アジア諸国製コンデンサの性能もよくなりつつあるが、日本製がいまのところ世界トップクラスの性能だ。

 ここまでいろいろポイントをまとめているが、2次側平滑回路の「最適解」というものがない。どんなに高い部品を使っているハイグレードな電源でも、うまく平滑できずノイジーな電源もある。

 最終的には、記事などに掲載されている電源の波形を見て、できるだけ上下のギザギザやうねりがない、一直線な電圧グラフになっているものがベストだ。ただ定規で引いたような直線になる電源はほとんどないので、ギザギザが小さいものを選ぶといい。

電源の記事には、必ずノイズがどのぐらい乗っているか、交流成分がほとんどない直流になっているかが分かるグラフが掲載されている。ギザギザや大きな波がない、直線の直流が出ているのがベスト。この波形は低ノイズで優秀
PCが誤動作することはないが避けた方がいい電源。全体がギザギザだったり、大きくうねっている線(交流成分)が出ているものなどさまざま

8. 12V→5Vと3.3V変換: DC/DCコンバータは特にポイントなし

 ここまでで12Vの直流に変換できたので、あとは5Vと3.3Vの直流が必要になる。ただほとんどの電源は、12V→5Vと12V→3.3Vに降圧するDC/DCコンバータと呼ばれるサブの基板(ドーターボード)を使っているので、チェックポイントはない。

リング型のチョークコイルとアルミ固体コンデンサが数個乗っているドーターボードは、だいたいDC/DCコンバータ

9. ATX、EPS、PCI Expressに割り振り: プラグインコネクタはバイパスコンデンサのチェック

 必要な電源がすべて揃ったので、あとは各コネクタに電源を割り振るだけ。

 ポイントは、プラグインコネクタの場合、コネクタ裏にコンデンサが入っているかどうかである。通常はコネクタ1個に対して1個のコンデンサが入っている。これは個々のコネクタの消費電力が急激に増えたとき、コンデンサに貯めてあった電力を放出して瞬間的に大電力が必要になっても安定して電力を供給できる。

プラグインコネクタ裏には、ひっそりとコンデンサが仕込まれている。ゲーム用やレンダリングするPCでは、コンデンサが乗っている方がいい

 ゲームや3Dソフトなど、急に処理が重くなる場合はコンデンサが乗っているものがベスト。OfficeやWebブラウザ程度であれば、コンデンサなしでもまったく問題ない。

記事に出る電圧変動グラフはどう読む? 高負荷時の電圧低下は0.3V以下が望ましい

 たとえば3Dゲームなどで長時間ハイパワーなビデオカードを使うと、よりたくさんの電力が必要になる。またアイドル状態が続く場合は、さほど電力を必要としない。

 80PLUSなどの省エネ電源が主流になった今、2次側の電力消費に合わせて1次側から供給する電源をコントロール(フィードバック制御)して、省エネ~大出力まで対応できるようになっている。

4本足のICのようなパーツがフォトカプラ。この電源は3つのフォトカプラが実装されているので、MOS-FETを3つ積んでいて、昔で言う3レーンをまとめてシングルレーンにしているってことも分かる

 たいていの電源では、2次側平滑回路で作られた12Vの変化を「フォトカプラ」という部品を通して、1次側をスイッチングするMOF-FETにフィードバック。消費電力に合わせて1次側に入れる電力をコントロールして細かな電力調整をしている。

 これらはベンチマークテストをした時の電圧グラフとして掲示されている記事が多い。

茶色がEPS12V、赤がATX12V、青がPCI Expressの12Vの電圧変移。負荷がかかると電圧が少し下がる。この電源はEPSが非常に安定、PCIも0.2Vの低下で◎。ATXは0.3V低下でまあまあというところ。上限12.6V、下限11.4Vを逸脱するとATXの規格外になってしまう。最近は負荷を検知すると電圧を上げる電源もある。ただあまり高い電圧をキープし続けると発熱が多くなるので注意

 ポイントは、高負荷がかかっても電圧があまり下がらない(0.3V以下)ものがオススメ。最近は高負荷になると電圧を上げる電源も増えているが、こちらもATXの規定内の12.6V未満であることが望ましい。

ファンの運転音は気にする必要なし! 逆にファンレスは避けたい

 2020年以降の電源は、ファン音がうるさい電源がほぼ皆無になった。なので気にする必要ないだろう。レビュー記事で特に「うるさい」と書かれていなければOK。

 ポイントは、ファンを止められるタイプは実はオススメできない。電源のファンは、配置方法にもよるが、PC内部の廃熱を排出するのにも使われるので、常にファンを回して積極的に排熱する方がいい。たとえファンを止めたところで、それほど静かにならないので、ファンレス運転は害しかないと思った方がいいだろう。

PC専門雑誌が亡き今、電源マイスターになって自分の目で見極めよう

 国内でのPC自作の専門誌が亡き今、電源選びは自分の目だけが頼りになってしまった。ただWebでは波形も掲載しているレビュー記事があり、海外サイトに行くと電源の中の回路を見せている記事も多くある。

 海外サイトは専門的なうえに英語がメインなので、理解するのは難しいが、この記事に記載されているポイントを見ていけば、なんとなく電源の良し悪しが見えてくるだろう。

 ワケ分らん電源の性能を見極められる電源マイスターになれるよう、少しでもこの記事がお力添えできれば嬉しい。