やじうまPC Watch

動物の“もふもふ”をよりリアルかつ10倍速くレンダリングする技術

~表面下散乱にニューラルネットワークを活用

新手法でレンダリングされたオオカミ

 米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCサンディエゴ)は20日、同大学バークレー校の研究者と共同で、動物の毛皮のをより高速かつリアルにコンピュータでシミュレートする技術を発表した。

 タイで開催された「SIGGRAPH Asia」で発表されたもので、コンピュータで動物の毛皮をシミュレートするさい、従来よりも正確なシミュレーションを生成しつつ、10倍高速にレンダリングできるという。

 具体的には、毛皮をシミュレートするときの光の反射を劇的に改善するというもので、ビデオゲームからコンピュータ生成の特殊効果、CGアニメーション映画まで、あらゆるものに適用できるとしている。

 既存モデルを利用した場合の問題の1つに、「モデルが人間の毛髪の生成のために設計されているため、毛皮に利用すると上手く動作しない」というものがある。

 これは、既存のモデルのほとんどが、毛の1本ごとに存在する「髄質」を考慮していないために生じるもの。動物の毛の髄質は、人間の毛髪よりもはるかに大きく、光の通過と髄質による散乱は、毛皮のシミュレーションを行なう上で重要な要素となる。

 これまでの大部分の研究者は、髄質を無視して毛から別の毛に向かって反射する光線を考慮したモデルを作成しており、結果として、既存モデルは膨大な計算量が必要で、低速で高価なものになっていたという。

 対照的に、今回の研究結果では、毛の周りで光がどのように跳ねるかを素早く近似するために、「サブサーフェイス・スキャタリング(表面下散乱)」と呼ばれる概念を用いている。

Fur Real - Scientists Improve Computer Rendering of Animal Fur

 表面下散乱は、半透明の物体(毛髪や毛皮など)の表面に侵入した光が、どのように反射して出ていくかを表したもの。半透明な物体の表面を透過した光が、物体の材料と相互作用し、内部で散乱した後に、表面から出て行くメカニズムを指す。

 この概念は、コンピュータグラフィックスやコンピュータビジョンの分野において、皮膚の表現などですでに利用されている。

 暗い部屋の中で、点灯させたスマートフォンのフラッシュなどを指で覆うと、緑や青い光が身体に吸収され、赤い光だけが漏れてくるのが見て取れるが、それも表面化散乱の例と言える。

 発表された技術では、毛皮繊維に表面下散乱の特性を適用するために、ニューラルネットワークを用いているという。

 UCサンディエゴのRavi Ramamoorthi氏、Henrik Wann Jensen氏と、UCバークレーのLing-Qi Yan氏らは、「表面下散乱を毛皮に適用する場合に、明示的な物理的/数学的な方法はない」と述べており、「それらの2つの異なる世界を“つなげる”ために、ニューラルネットワークを使う必要があった」と語っている。

 ニューラルネットワークを使って、1つのシーンで学習させたアルゴリズムは、異なるシーンの描画でも適用可能でき、シーンに適したリアルなレンダリングを可能とするため、従来技術よりも10倍高速にシミュレーションが実行できたという。

 リリースでは、新手法を用いることで、毛皮でも人間の毛髪でも、同様に上手く動作したと述べているほか、髪毛を新手法でレンダリングした場合には、従来よりもさらにリアルな結果を得られたとしている。

 同校では、毛皮と毛髪のリアルタイムレンダリングでの利用を次のステップとしている。

新手法でレンダリングされたアライグマ
新手法でレンダリングされたハムスター