イベントレポート

オリンパス、毎秒1万コマの超高速イメージセンサーを開発

開発したCMOSイメージセンサーによる撮影画像の例。撮影間隔は100μs(1万分の1秒)である。200万画素の画像を8枚まで連続して撮影できる

 オリンパスは、撮影速度が1万フレーム/secと、きわめて高いCMOSイメージセンサーを開発し、その内容をVLSIシンポジウム(「VLSIシンポジウム」の概要は既報を参照)で公表した(講演番号C4.5)。

 開発したのは1,600万画素のCMOSイメージセンサーで、通常撮影モードと高速撮影モードの2つの撮影モードを備える。高速撮影モードでは、画素数が200万画素、撮影速度が1万フレーム/secの動画撮影が可能となる。なお通常撮影モードでは、画素数が1,600万画素、撮影速度が5フレーム/secの静止画撮影を実行する。用途としては、レンズ交換式デジタルカメラや移動体観測カメラ、ロボット用カメラ、自動車用カメラなどを想定している。

CMOSイメージセンサーの長所と短所

 CMOSイメージセンサーは、CCDイメージセンサーに比べて駆動電圧が低い、消費電力が少ない、スミアが生じない、周辺回路との混載が容易といった利点によってCCDイメージセンサーを置き換え、デジタルカメラの主役にのし上がった。

 ただし、CMOSイメージセンサーには弱点がある。高速で移動する物体を撮影すると、撮影画像に歪みが出てしまうのだ。これは撮影画像を構成するライン(行)を読み出すときに、各行を同時に露光して読み出すのではなく、少しずつタイミングをずらして露光し、読み出すからである。このため、撮影対象が高速に移動していると画像の最上部と最下部では露光のタイミングのずれによって対象の位置がずれる。このずれが歪みとなってしまう。ちなみにこの露光方式を「ローリングシャッター方式」、歪みをローリング歪み、またはフォーカルプレーン歪み、動体歪みなどと呼ぶ。

 高速で移動する物体を歪みなく撮影するためには、各行(各ライン)を同時に露光することが望ましい。この露光方式を「グローバルシャッター方式」と呼ぶ。実はCCD方式がイメージセンサーに使われていたときは、グローバルシャッター方式が普通に採用されていた。CCDはラインごとの電荷転送を基本的な機能として備えている(厳密には電荷転送がCCDの原理そのもの)ので、グローバルシャッター方式でもコスト増にはつながらなかったからだ。

 しかしCMOS方式のイメージセンサーでは、グローバルシャッター方式を導入するとシリコンダイの製造コストが増加してしまう。センサーの画素に蓄えた電荷をいったん保存しておく記憶素子(メモリあるいはストレージと呼ぶ)が必要になるからだ。記憶素子は基本的に撮影画素と同じ数が必要であり、シリコンダイ面積の増加、言い換えると製造コストの増加につながる。しかも記憶素子には光が入らないように遮光する構造と、周囲から記憶素子を電気的に絶縁する構造を設けなければならない。このため、シリコンダイの製造コストがさらに増えてしまう。

3次元積層の期待と現実

 そこで考案されたのが、受光素子(フォトダイオード)と記憶素子(メモリあるいはストレージ)を異なるシリコンダイに形成して積層することである。こうすると、受光素子のシリコンダイは、ダイ面積の中で受光部に活用する割合が大幅に増加する。記憶素子を混載していた場合に比べ、同じ画素数であれば、シリコン面積が大幅に減ることになる。そして記憶素子のシリコンダイは受光部がないので遮光と絶縁の作り込みが容易になり、シリコンの製造コストが下がる。同じシリコンダイに受光素子と記憶素子を作り込むよりも、製造コストが下がる可能性が高い。

 ただし、2枚のシリコンダイを接続することは簡単ではない。基本的には、画素数と同じ数の接続箇所が存在する。例えば1,600万画素のイメージセンサーであれば、1,600万箇所の接続が生じることになる。この膨大な数の電気的接続を100%の歩留まりで実現することは簡単ではない。

400万の微小なバンプでシリコンダイ間を接続

 オリンパスが開発したCMOSイメージセンサーも、静止画撮影にグローバルシャッター方式を導入した。シリコンを受光素子のシリコンダイ(「トップ基板」と呼称)と記憶素子のシリコンダイ(「ボトム基板」と呼称)に分割し、3次元積層によって接続した。

 2枚のシリコンダイの接続には、直径が7.6μmと微小なバンプ(マイクロバンプ)を使う。4個の画素を1個のユニットとし、1個のユニットに1個のマイクロバンプを割り当てることで接続数を減らした。とはいってもマイクロバンプの総数は4,008,960個に達する。マイクロバンプのピッチは7.6μmである。

 1個の受光面(画素)の大きさは3.8μm角で、撮像の画素数は4,608×3,480(水平×垂直)画素である。受光面全体の寸法は17.2×13.2mm、シリコンダイの寸法は20.7×19.7mmとかなり大きい。通常撮影モード(グローバルシャッターモード)で記憶素子に漏れる光の大きさを示す寄生受光感度(PLS: Parasitic Light Sensitivity)はマイナス180dBときわめて低く、非常に良好な値を得ている。

2枚のシリコンダイで構成したCMOSイメージセンサーのブロック図
開発したCMOSイメージセンサーの主な仕様(製品仕様ではない)

(福田 昭)