ニュースの視点

国内タブレット所有率の頭打ちをどう見るか

~大河原氏、笠原氏、山田氏の視点

このコーナーでは、直近のニュースを取り上げ、それについてライター陣に独自の視点で考察していただきます。

 11日付けのニュース(3年伸びた国内タブレット所有率が頭打ちに)で報じたとおり、過去3年伸びていた国内タブレット所有率が2016年、減少に転じた。非所有者の購入意向も減少傾向だという。大河原克行氏、笠原一輝氏、山田祥平氏は、この状況をどう捉えているのだろうか?

大河原克行氏の視点

 国内におけるタブレットの所有率が32.4%となり、前年(2015年)に比べて横ばいという調査結果が発表された。

 MMD研究所が発表した「2016年タブレット端末に関する定点調査」によるもので、前年の調査では33.0%であったのに比べると、むしろ微減になっている。

 タブレットの所有率に変化がなかったのは、大画面スマートフォンの普及や、2in1 PCの台頭(本調査では日本マイクロソフトのSurfaceシリーズはタブレットに含まれている)、あるいは以前に比べると、積極的なタブレットの無償配布キャンペーンがなくなったということも挙げられるかもしれない。

 3人に1人が所有するという水準は、スマートフォン普及率が49.7%(総務省平成26年全国消費実態調査)や、PCの普及率が78.0%(総務省平成27年版情報通信白書)であることに比べるとまだ低いといわざるを得ない。本来ならば、普及率や所有率は20%を超えると一気に拡大する商品が多いと言われるが、タブレットは、30%を超えたところで、勢いに一服感が出てしまったというわけだ。

 そして、欧米に比べても、タブレットの普及率は低い状況にある。かつて、国内のPC普及率が世界的に低い理由の1つにキーボード文化に慣れないという、日本特有の利用を挙げる声があったが、キーボードがないタブレットの普及率が低い理由としては、なにが当てはまるのだろうか。

 関係者の間で指摘されているのが、タブレットやスマートフォンに共通する頻繁なアップデートの存在である。iOSやAndroidは、常にアップデートを繰り返すのが特徴。今では、Windows 10も同様に頻繁なアップデートを繰り返している。

 欧米では個人はもとより、企業においても、こうした頻繁なアップデートを受け入れることが一般化しているという。だが、日本ではなかなかそれが浸透しない。企業がWindows 7を使い続ける温床となっているほか、ガラケーが今でも普及率が高い理由もそこにあると言えるだろう。頻繁なアップデートが使いにくいというイメージに繋がっていることが、今後、一般ユーザーへと広がる30%台の所有率に到達したところで、普及に歯止めがかかったといえなくもない。

 また、タブレットならではの特徴的な使い方が見いだせないことも、歯止めがかかった理由の1つと言えそうだ。PCも、一時期普及に歯止めがかかった時期があったが、インターネットの広がりとともに、出荷台数に弾みがついた。タブレットにも、普及に弾みをつけるような仕掛けが求められる段階に入ってきたようだ。

 1つ確かなのは、「タブレットがPCに置き換わってしまうのではないか」、「タブレットがあれば、PCはいらないのではないか」といった議論がなくなってきたことだ。PCの使い方、タブレットの使い方、そして、スマートフォンの使い方は、それぞれに異なる。裏を返せば、それぞれのデバイスに最適な使い方提案ができなければ、これからの出荷に弾みがつかないということになる。

笠原一輝氏の視点

 キーボードがなく、タッチディスプレイのみが用意されているデバイスはひとくくりで「タブレット」と呼ばれているが、実態としては大きく2つの市場に分けられる。1つは主に8型以下のディスプレイを採用した、スマートフォンの延長線上にある「ビューアタブレット」とでも呼ぶべき、コンテンツを楽しむためのタブレットだ。低価格なAndroidタブレットやiPad miniなどがこの市場の製品ということになるだろう。もう1つは主に10型以上のディスプレイを採用した、PCの代替となり得る生産性向上を目的とした「プロダクティビティタブレット」だ。MicrosoftのSurfaceシリーズなどのWindowsタブレットやAppleのiPad Proなどがこれに該当するだろう。

 今回の調査で主にターゲットになっているのは前者になる。Appleが初代iPadを2010年に発表してから6年が経過し、欲しい人が買ってしまった現状では、ビューアタブレットの所有率の伸びが停滞し、成長率が下がるのも無理はない。スマートフォンが必要なユーザーにほぼ行き渡り、成熟市場になったのと同じことだ。既にビューアタブレットは、メンテナンスモードと呼ばれる買替え需要が中心となる製品になっている。

 現在タブレットの市場で唯一伸びているのが、プロダクティビティタブレットの市場だ。これまで主にSurfaceシリーズなどWindowsタブレットがこの市場の中心的存在だったが、Appleが2in1としても使えるiPad Proを投入したことで、市場が活性化している。MicrosoftはOfficeアプリケーションをWindowsだけでなく、iOSやAndroid向けにも提供開始。AdobeもCreative Cloudアプリケーションのモバイル版を矢継ぎ早に投入している。生産性を目的とするビジネスユーザーがこれらのプロダクティビティタブレットをOSに関係なく選べる環境が整いつつあるのだ。

 そうしたプロダクティビティ市場をリードしてきたのは、Surfaceシリーズを2012年に投入したMicrosoftだ。ようやく昨年iPad Proを投入したAppleはそれを追いかける形になるが、既にiPadで多くのユーザーを抱えていることが強みとなる。それぞれに一長一短あり、Microsoft側はOfficeやAdobe Creative Cloudのフル機能版デスクトップアプリがそのまま使える点が長所だが、クラウドサービスを活用するUWPアプリの数がまだまだ十分ではないことが弱点となる。

 Appleの場合はその逆で、クラウドサービスを活用できるアプリは十分だが、生産性向上のためのアプリはようやく出始めたばかり。また、マルチタスク・マルチウインドウの機能が不十分だったり、マウスや日本語の外付けキーボードが標準ではサポートされない点も課題となる。どちらのOSメーカーも継続的にOSの機能向上を図っており、現在足りない機能も徐々に加えられていくことになるだろう。

 今後もタブレット市場を活性化して行くには、そうしたOSの特徴を生かした魅力あるハードウェアをメーカー各社が提供していけるか次第だ。特にPCメーカーには生産性向上のデバイスには長い経験を持っているので、その経験を活かしたプロダクティビティタブレットに取り組んでいけば、市場に魅力的な製品が出揃い、ユーザーの選択肢が広がっていき、市場が拡大することになるだろう。

山田祥平氏の視点

 個人の私物としてのタブレットという観点から今回の調査結果の所有率を見たら、特に驚くような推移でもなく、そんなものだろうと思う。猫も杓子も的な時期が過ぎただけで、これが来年(2017年)はもっと減ることになるとは思えないし、増えることもないだろう。落ち着くところに落ち着いたと言ってもいいかもしれない。

 端末の種類としては盤石であり続けるかと思ったiPadすら微妙にポイントを落としているが、その落ちた分がAndroidやWindowsタブレットに回っているといったところか。

 購入意向が減少傾向にあるのは、早期に入手した層がPCの代替にならないことを知ってしまったからなんだろう。代替ではなく追加の意識を持たなければタブレットを入手しても後悔するだけだ。

 そもそもインターネット調査だから実態とはかけ離れていると考えるべきなのだろうけど、傾向は分かる。ちなみに調査会社に無料の会員登録をして入手できる資料では、「タブレット端末を持たない理由」についての調査結果も公開されていて、複数回答ながら「PCがあるから必要ない(58.3%)」、「スマートフォンがあるから必要ない(37.2%)」といった値が出ている。

 本当はここが重要だ。この部分を「××があるから、それに加えて△△が欲しい」に転じさせなければ業界的にも、さらに日本という国のスマートリテラシー向上の面からもまずいのではないだろうか。いまだスマートフォンを持たないあと半分の日本国民5,000万人の実態を知りたいところだ。

(笠原 一輝/山田 祥平/大河原 克行)