Let's note

Watch突撃取材隊が行く!!

「ユーザーの声に、メーカーはどう答える?」

第2回:松下電器産業「Let's note」

取材・文:本田雅一


  「Watch突撃取材隊が行く!!」では、ひとつの製品に対するユーザーの声をアンケート方式で集め、ユーザーのみなさんに代わって、ライターの本田氏がメーカーに取材を行ないます。なお、アンケートの結果およびいただいたご意見は、個人情報を除いた形ですべてメーカーにお渡ししています。  第2回では、ユーザーの声を反映した製品作りで支持の高いLet's noteシリーズを取り上げました。(編集部)

□アンケート結果
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980116/result02.htm
□アンケートページ(11月28日~12月3日実施)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/totugeki/totu02/totu02.htm


 自分の生活に密着した道具であればあるほど、その道具に対しては妥協ができないものだ。人によってそれは、ライターであったりペンであったり、または手帳だったりする。コンピュータの世界で、しばしばかな漢字変換やテキストエディタの宗教的論争が行われることがあるが、そこに何らかの道具があれば「こだわりのぶつかり合い」は必ず存在するものだろう。

 と書き始めたのは、前回のPower ZAURUSの記事だった。この連載を“道具シリーズ”にするつもりは無かったのだが、やはりネタがネタだけに扱う製品にも類似性が出てくる。ということで、今回の題目もモバイル関連製品であるサブノートPCのLet'sNOTEだ。

 今でこそモバイルPCの主流は、1キログラム前後のノートPCへとシフトしているが、メインで利用するPCとモバイル用PCをひとつにしたいユーザーにとって、B5ファイルサイズのノートPCはバランスの良い仕様を持つものが多い。

 中でもLet's NOTEシリーズは、ユーザーの意見を積極的に商品企画に取り入れることを実践しているという。そのコンセプトや、これからの指針などについて、松下電器産業パナソニック・コンピュータ・カンパニーで商品企画課主任を務める荒木聖氏にお話を伺った。

 なお、ユーザーからのLet's NOTEへの要望と、それに対する松下電器の回答はこの記事の最後にまとめたのでそちらを参照していただきたい。


■主力機として利用するユーザーの多いLet's NOTE

 アンケート結果を見回してみると、Let's NOTEを“サブ”ノートPCではなく、メインで利用するPCとして購入しているユーザーが多いことに気付く。ここ数年の進化により、CPUやハードディスクなどの主要スペックで、十分に主力として使えるだけのスペックをB5ファイルサイズに詰め込めるようになってきたことが原因と思われる。
 そして、そうしたB5ファイルサイズノートPCの中でも、Let's NOTEは特にハイエンドのスペックを搭載する傾向にあるようだ。このあたりは商品企画の段階から、かなり意識した設計になっているのだろうか。

 荒木氏は「結果としてはメインで使われている方も多いようですね。しかし、最初は違っていました。私たちはPCの分野では挑戦者です。ですから、私たちがすでに持っている技術を顧客にどのような形で提供できるかを考えたのです。そこで思いついたのが、家電製品や携帯電話で培ってきた小型軽量化技術を前面に押し出そうというものでした。また、液晶やバッテリなどのモバイルPCを構成する主要なパーツを自社で作ることができます。そして立てたのが、Let's NOTEシリーズを世界中のビジネスマンの鞄の中に入れたいという最終目標なんです」という。

 つまり当初の目標は、あくまでもモバイルPCを提供することにあったわけだ。そして、当初から幅広いユーザーをターゲットとすることが難しいと考えていた。カバンの中にPCを常に入れて持ち歩くユーザー層を想定した場合、それはおそらくある程度PCを使いこなすユーザーであろうという予測を立てていたそうだ。

「初代のLet's NOTEを設計するに当たって、PCをすでに使いこなしているユーザー向けにスペックは落とせないだろうと考えました。カバンで持ち歩ける手軽さと、ある程度高いスペック。この両方に挑戦した結果として、メインのPCとして利用できるモバイルPCになったのだと思います。ただ、現在は新たにLet's NOTE miniが発売されましたから、モバイル専用PCとして捉えてらっしゃるユーザーがそちらに流れ、B5ファイルサイズはよりメインマシンとして利用するユーザーが増えてくるでしょう(荒木氏)」

 と、こういうお話を伺っているとき、荒木氏から興味深いデータが提示された。Let's NOTEユーザーの多くは、自宅、外出先、会社の3カ所において、ほぼ同等の頻度で利用しているというのだ。1台だけですべてをまかないたい時に、そのすべてのシチュエーションにフィットしていると言えるのかもしれない。

 「やはり仕事をする上で、複数台のPCに同じデータを持つというのは運用が難しくなります。1台で何でもしたいというユーザーにLet's NOTEが受け入れられたんだと思います(荒木氏)」というように、モバイル専用という視点でユーザーはB5ファイルサイズのサブノートPCを見ていないのだろう。

 また、Let's NOTEのユーザーは極端にパソコン経験年数の長いユーザーが多いのだという。7年以上の利用経験があるユーザーは全体の55%を超え、4~7年のユーザーも20%。パソコンをはじめて1年以内のユーザーは全体の4%にしか過ぎない。それだけ玄人ウケする機種になっているのだろう。

 非常に不満意見の少ないLet's NOTEだが、「価格が高い」あるいは「すぐに新しいスペックになるなら、最初から高速CPUを積んでおいて欲しい」という意見は、今回のアンケートで特に目立った。中でも、新製品が発売されて数カ月経てば、CPUやハードディスクを強化した製品が同じ価格で発売されるという法則は、Let's NOTEユーザーの間で定着しつつある事実だ。

 これについて荒木氏は「コンシューマ向けということで、ある程度価格は抑えなくてはなりません。しかし、ある程度高いスペックを提供する必要もあります。結果として同じ実売価格という制限の中で、その時、その時に実現できる最良のスペックを提供するという形になっています」という。

 このあたり、コストを圧縮しようと思えば、多モデル戦略は採りにくいことを考えれば、納得できる戦略とは言えるだろう。入手可能な最高のスペックを詰め込み、実売価格をだんだん下げるというやり方もあるが、その場合もやはりある時点で急に価格が下がるといった弊害もでてくる。



■ユーザー意見を吸い上げた結果が現行Let's NOTE

 初代Let's NOTEと現行Let's NOTE。このふたつを比較すると、大筋には非常に似た製品でありながら、キーボードの音、PCカードスロットのダミーカード、ポインティングデバイス、液晶の明るさ調整といった、実際に利用する際に気になりそうな、しかしかなり細かな部分での変更点が多い。こうした熟成は、メーカーサイドだけで考えただけでは、なかなか図ることが難しいはずだ。

 たとえばポインティングデバイス。パッドタイプは多くのユーザーに嫌われているが、逆にトラックボールは小型軽量化を進める上で障害になりやすい。各構成コンポーネントの配置も自由度が阻害される。しかし、ユーザーからの“トラックボールを”という強い要求が、トラックボール採用へと向かわせたようだ。

 「外出先で利用する機会の多いLet's NOTEですから、いろいろなシチュエーションで利用されます。ですから、操作性の良さは最優先しなければなりません。光学式トラックボールは、いろいろなデバイスを試し、そこからユーザーの意見を取り入れて落ち着いた仕様ですから、今後も小型化が進む中でトラックボールにこだわり続けたいと思っています(荒木氏)」

 こうしたユーザーの意見に耳を傾けるという手法は、企業向けのPRONOTEシリーズからコンシューマのLet's NOTEへと踏み出すときに取り入れたそうだ。荒木氏が「販売店とユーザーの声を聞くことから、Let's NOTEの開発は始まりました」言うように、ユーザーが製品を育てることのできる環境づくりを整えたことが、Let's NOTEのこれまでの成功を支えてきたのだろう。

 ユーザー意見の吸い上げは徹底しており、Let's NOTEのパワーユーザーに松下電器側からコンタクトを取り、商品企画やマーケティング、開発の担当者などが直接ユーザーニーズのヒアリングを行なっているそうだ。

 そして、昨年末に発売されたLet's NOTEは、そうしたヒアリングの結果生まれた商品だという。光学式トラックボールの採用、2.5時間の標準バッテリー、8時間の大容量オプションバッテリー、SVGA液晶パネル、2つのPCカードスロット、1キログラムの重量といった特徴は、すべてユーザーから“必ず”と注文を付けられたスペックだ。

 荒木氏は「ヒアリングを行なったユーザーからのプレッシャーが無ければ、どこかに妥協が生まれたかもしれない」という厳しい注文だったようだが、結果として魅力的な製品が生まれたことも事実だ。

「これからも技術レベルを前提にした製品作りではなく、ユーザーの望む声を技術でなんとかクリアする製品作りを続けていきたい(荒木氏)」というから、将来登場するであろうB5ファイルサイズの新Let's NOTE、そして新しいカテゴリの開発にも積極的に挑戦して欲しい。

 Let's NOTEシリーズが、荒木氏の言うようにモバイルPCとしての実用性を重視しながら華を持たせる方向性で進化するというのならば、味わいを醸し出す完成された文房具として将来のLet's NOTEが登場することを期待して待ちたいものだ。



■メーカーQ&A

 以下では、複数の読者から不満として挙げられている点について、取材した結果をレポートする。

●キーボードの剛性が不足している/キータッチが柔らかすぎる
初代Let's NOTEユーザーからの意見で、キーボードの音が気になる、ストロークが浅いという2つの報告を多く受けました。そこでキーをパンタグラフ式にして静粛性を向上させた。しかし、小さいキーにパンタグラフを収めたことで支えが弱くなり、タッチが変わったことは確かです。初代での問題を解決したことで、新たな問題が浮上してきたわけですが、次モデルで解決できるように努力しています。
●英語キーボードに対応して欲しい
 英語キーボードに関しては非常に多くのユーザーから要望をいただいています。
 Let's NOTEシリーズはこれまで国内モデルしか存在しませんでしたが、米国での発売を現在検討しているところです。実は英語キーボード対応を行なうためには、BIOSアップデートの必要もあるので、どのようなサービス形態になるかは明言できません。しかし、英語モデルが発売されれば、国内での英語モデル発売などを検討したいと思います。
●大きさはいいのだが、もうすこし薄くしてほしい。
 VAIO 505が登場してきたことで、デザイン面でのユーザーの要求が高まったことは事実でしょう。これまでLet's NOTEは実用性を重視して設計を行なってきましたが、これからは高い実用性の上に華のある商品性も加えたいと考えています。それが薄さになるかは別として、持ち歩く道具として所有していることの満足感を持てる製品にしたいですね。その意味ではVAIOに見習う部分は大きいでしょう。ただ、Let's NOTEをVAIOにする気はありません。
●2時間程度しか保たない。電池がヘタるのが早すぎるのではないか。
 現在採用されているバッテリにはマイコンが内蔵されています。このマイコンは、満充電とすべて放電した状態を記憶するようになっています。この記憶は、一度満充電にしたあとにサスペンドを一度もせずに最後まで電池を使い切ることで、マイコンに記録することが可能です。一度この操作を行なっていただければ、実使用環境で3時間前後のバッテリ持続時間を得られると思います。
●価格が高すぎる。VAIO 505と比較すると価格の高さが目立つ。
 VAIO 505との比較は全く予想していませんでした。スペックが全く異なりますから。ただ、バンドルソフトがないから高く感じるということはあるかもしれません。ユーザーの望む価格帯で最大限のスペックを実現したいと考えていますが、現在の私たちの考えている価格帯とユーザーの望む価格帯が少しずれてきているのかもしれません。
●筐体が安っぽい感じがする、塗装が剥げやすい。金属筐体にはできないのか。
 また、壊れやすく見える
 マグネシウム合金は、採用することで筐体を薄くすることには貢献するでしょう。しかし、同じサイズだと逆に重くなりやすい。薄くすることによるきょう体の体積減少と重量増加の両方を合わせて、同等の重さぐらいだと思います。ただ、質感向上には役立ちますから、ひとつの選択肢として考えてはいます。塗装に関しては、使い方によって剥げる場合があるとの報告は受けていますから、次モデルでの改善を行なう予定です。
●50枚ものバックアップFDを作るのは大変。CDを添付して欲しい。
 現行のLet's NOTEでは対策を行えませんでしたが、Let's NOTE miniにはCD-ROMを添付するようにしました。今後の製品にはCD-ROMを添付していきたいと考えています。
●USBに対応してほしかった。
 USBの需要が見込めるようになれば、当然対応していかなければなりません。しかし、現状では付けたとしても使えない。将来に関しても、使えるだろうけれども確実に普及するかどうかは予測の範疇でしかありません。そうした部分に余分なコストをかけるより、もう少し実用的な部分にコストをかけたかったので、現行のモデルには採用しませんでした。

[Text by 本田雅一]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp