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第56回 : Palmにはない可能性を持つ「Visor」



 今年に入って一番の失敗だった。なんとも迂闊なことに、ハンドスプリング株式会社の日本語版Visor Deluxeに関して全くアンテナを立てていなかったのだ。おかげでVisorの発表会が行なわれたことすら知らず、出張先の軽井沢から帰宅して別の仕事を進めていたのだ。

 多くの人はご存知のことと思うが、コンシューマをターゲットにしたPDAのVisorは、Palm OSを採用したPalm互換機である。(とりあえず先の戦略はさておき)現行のPalmは情報を持ち歩く手段として優れているものの、今1つ購買欲に駆られなかったのだが、Visorとなれば話は別である。僕がPalmに対して不満に感じていることが、ある程度解決されているからだ。

 幸いなことに先週末、ハンドスプリングからVisorを短期間お借りできたので、簡単なレビューを挟みつつ、Visorに関する話をしてみよう。


●なぜPalmではなくVisorなのか

 Visorに注目する理由を説明するのは簡単だ。Visorの最大の特徴であるSpringboardスロットに、Palmにはない可能性を感じるからでもあるが、何より価格の手ごろさとソツのない作りにも好感を持つ。

 Palmのファンから批判を浴びることを承知で書くと、Palmは標準で備える機能の割に価格が高めだとずっと感じてきた。“価格は部品の値段ではなく、製品の価値で決まるものだ”とするならば、決して法外な価格ではないが、かといって割安だとも思わない。しかし8MB版で3万円を切るVisorなら割安感もあり、ツールとして活用しながら遊ぶのにもちょうどいい。

 安いばかりではなく、本家のPalmよりも高機能かつ高性能である点も見逃せない。内蔵されているプロセッサの速度は、Palm Computingのものと変わらないはず(クロック周波数16MHz)なのだが、非常にレスポンスがいい。単に気分かもしれない、と疑ってみたが、ベンチマークソフトを取ってみてもPalmを大きく上回る。元々軽快に動作するPalmシリーズだが、さらに軽快に気持ちよく動作する。

 内蔵されるソフトウェアも、OSのバージョンが3.1Jベースであるため、一部の機能はPalm VxやPalm IIIcに比較すると劣る(たとえば辞書引きがアプリケーションから直接できないなど)ものの、辞書アプリケーションがROMに内蔵(Palm Computingでは3.5JでROMに内蔵)されたり、予定表機能を強化した「予定表+」がROMに内蔵されるなどさまざまな手が加えられている。速度が速いのも、あるいはソフトウェア面でのチューンナップもあるのかもしれない。

 予定表+は人気シェアウェアのDatebk3(最新版はDatebk4)によく似ており、予定にアイコンを割り当てたり、予定表とTo-Doのデータ連携を実現できたりと、タイムゾーンの切り替えなどはサポートされていないが、多くの人はシェアウェアを新たに購入しなくても、スケジューラとして充分に使うことができるはずだ。

 また低価格なことや、トランスルーセントな外観の写真から想像すると、玩具っぽいイメージを持つかもしれないが、意外に質感は高い。ボタン類の質感や全体のフォルム、細かなところではクレイドルとの接続端子まわりの処理に至るまで、Visorとよく似た筐体を持つPalm IIIシリーズよりもスッキリとスマートな印象を受けた。質感は上々である。


●SpringboardがPalmを変える

Springboardはゲームボーイのカセットのように挿入する
 以前、Palm Vxとiモード携帯電話は、いい補完関係にあると書いたことがあった。iモードは情報を携帯できないが情報へのアクセスが容易。Palmは情報を携帯するには最適だが情報アクセスは不得手だからだ。メールのコピーをサーバーから転送できる人なら、メール受信に関してはiモードに任せてしまってもいい(文字数制限はキツイが)。

 正確にはPalmでも、携帯電話やPHSと接続してインターネットに接続することは可能だ。しかし決して手軽とは言えないのも事実である。大きなスナップコネクトを一緒に持ち歩くか、赤外線シリアル接続のIrCOMMをサポートする携帯電話(現在はNM502iしか販売されていない)を利用する必要がある。これは決して小さな制限ではないと思うのだ(そもそもPOPメールを標準アプリケーションで受信することもできない)。

 Visorに関しても、これらの問題を標準の機能で解決しているわけではない。しかしVisorに搭載されているSpringboardが状況を変えてくれるはずだ。

 SpringboardはVisor専用の拡張スロットで、ちょうどゲームボーイのカセットを挿入するようにVisorに装着する。拡張メモリやバックアップモジュール、ゴルフゲームの3種類が、ハンドスプリング純正のオプションとして販売されているが、XircomがモデムやBluetooth、イーサネット、IEEE802.11b(無線LAN)の各モジュールを7月から発売すると19日に発表した。このSpringboardモデムは別売りのキットを用いてPDC方式の携帯電話に接続することもできる。

 Springboardが優れているのは、ソフトウェアがボードの中に埋め込まれているため、本体にプラグインするだけで新たなソフトウェアをインストールすることなく機能を利用できることだ。

 多くの台数が販売されたら、という前置きを付けなければならないが、これまでどちらかというとマニアックな印象のあったPalmが、Springboardの種類が増えることで、もっとライトにソフトウェアや機能を入れ替えながら使うお手軽な道具になってくれるかもしれない。通信のしやすさはもちろん、さまざまなソフトウェアがカード形式で提供されることにも期待したい。


●Windows 2000に繋いでみると……

 ところで僕は普段、OSにWindows 2000を使っている。詳細な情報を求めてハンドスプリングの米国サイトにアクセスしていたものだから、ついWindows 2000がサポートされているものだと思っていたのだが、日本語版ではまだサポートされていないようだ。

 USB接続のクレイドルしか同梱されないVisorでは、Windows NT 4.0に対してシリアルクレイドルによる接続をサポートしている。どうやらWindows 2000でもシリアルクレイドルであれば動作するようなのだが、全く動かないわけではない。米ハンドスプリングのホームページにアップロードされている最新のPalm Desktopを用いれば、Windows 2000でUSBクレイドルを利用できる。ダウンロード時にシリアル番号の入力を求められるが、電池蓋の裏に書いてあるシリアルを入れればOKだ。

 ただし、ドライバだけ英語版を使うことはできないようで、HotSyncと必ずセットで利用しなければならない。ところがPalm Desktopのインストールでは、必ずHotSyncがインストールされてしまうため、英語版に日本語版を上書きしてしまうと正常に同期が行なえなくなる(我が家のPCではWindows 2000のカーネルでエラーが発生した)。

 そのうち日本語版Palm DesktopもWindows 2000に対応すると思われるが、緊急手段としてWindows 2000でUSBクレイドルを使いたいのであれば、hotsync.exeとドライバだけを英語版にすれば、とりあえず利用できる。もしくは英語版Palm Desktopに日本語化パッチを入れることでも利用できる。日本語化パッチはPalm関連のさまざまなサイトで情報を入手できるはずだ(執筆が月曜日夜のためサイトへのリンク許可を取っておらず、ここでは紹介できないことをお詫びする)。

 我が家の場合、情報管理をOutlook 2000で行なっているため、Visor用の英語版Palm DesktopにバンドルされているOutlook対応同期ソフト「Pocket Mirror」で同期を行なっている(日本語版ではインストールされないが、英語版をインストールすると自動的に組み込まれる)ため、Palm Desktopは英語版のままで使った。アドレスデータの読み仮名が同期されないことを除けば、日本語データも問題なく同期できる。

 あわててシリアルクレイドルを購入する前に試してみて頂きたい。

□ハンドスプリングのホームページ
http://www.handspring.co.jp/
□米Handspringのホームページ
http://www.handspring.com/

[Text by 本田雅一]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp