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いよいよ見えてきたPrescottとGrantsdaleの製品計画




●これまでにないハイピッチなPrescottへの交代

 IntelのCPUロードマップは、過去半年で小刻みな様変わりを繰り返して、だいぶ様子が変わった。下の「Intel Desktop CPUコアの移行推測図」の通り、デスクトップCPUでは、予想を大きく上回るペースで、Prescottが浸透する計画となっている。先週のレポートでも触れたが、Pentium 4の時の移行と比べると、メインストリーム(Pentiumブランド)の低価格帯やバリュー(Celeronブランド)市場に浸透するペースが大幅に上がっている。

 これにはいくつかの理由が推測できる。まず、Prescottのダイ(半導体本体)は約109.1平方mmと見られており、Northwood(131.4平方mm)と比べると一回り小さい。そのため、90nmプロセスの欠陥率さえ順調に下がれば高い歩留まりを達成できる。

 また、0.13μmプロセスは、ウエーハサイズが200mmと300mmの両世代にまたがっていたが、90nmは300mmウエーハだけなので、Fab間のプロセスの移植が比較的容易になると推測される。さらに、PC市場は以前ほどの成長ペースがなく市場規模が伸びていないため、Intelが比較的おとなしい生産計画でいても、以前と比べると普及のペースが速くなる。

 Prescottはいつも通り段階的に周波数を上げる。現在の予定では、3.4GHzから1四半期に200MHzづつ上がり、2004年中盤にはおそらく4GHzに達する。IntelはPrescottの次に来る「Tejas(テハス)」が4.4GHzからスタートすると説明していたという。Prescottが4GHzか4.2GHzまでとすると、ちょうど符合する。ちなみに、現在Tejasは第4四半期のローンチになることが明らかになっている。

Intel Desktop CPUコアの移行推測図
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●PrescottではLaGrandeはオンにならずか

 このほか、デスクトップCPUでのアップデートは、Intelのセキュリティアーキテクチャ「LaGrande(ラグランド)」が、Prescottでは“オン”にならない“らしい”ことも明らかになった。PC業界は、PCの信頼性向上とマルチメディアコンテンツの保護のために、ハードウェアベースのセキュリティテクノロジの実装に向かって進んでいる。Microsoftはそのために、Next-Generation Secure Computing Base (NGSCB:コードネームPalladium)を次期OS「Longhorn」に実装しようとしている。IntelのLaGrandeはそれに対応する技術で、CPUに、認証されたコードしか走らない実行モードと専用メモリ空間を(ページングで)設ける。

 Intelは今年2月の段階ではPrescottにLaGrandeを実装することを明らかにしていた。しかし、4月頃にはややトーンダウン、あるIntel関係者は「イネーブルしないという話も聞こえてきた」と言っていた。Intelのデスクトップ部門を担当する、ウイリアム(ビル)・M・スー(William M. Siu)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President and General Manager, Desktop Platforms Group)は「LaGrandeは単にハードウェア上に実装するだけでは機能しない。OSとアプリケーションを含めた全プラットフォームが連携する必要がある」「(プラットフォームの)開発にはかなりの時間がかかると思う」とその背景を説明していた。

 おそらく、PrescottでのLaGrandeは、OSやアプリケーションベンダーとの機能検証用に使われ、実際にユーザーに対してイネーブルされるのは、Longhornと同時期か、あるいはTejasからになるのではないだろうか。

●最大メモリ量は4GBのままのGrantsdale

 デスクトップチップセットは、第2四半期に新アーキテクチャのチップセットが登場、少し遅れて同系列の機能制約版が出るというパターンが定着したように見える。「Intel Desktop Chipset Roadmap 推定」図を見るとわかる通り、来年も今年と同じパターンでチップセットが世代交代する。もっとも、スケジュールは必ずしも順調ではなく、マザーボードベンダーも初夏では、まだサンプルチップで新しいDDR2メモリの試験をする段階に到達していなかったという。DDR2メモリは本格的な互換性検証が広範に始まるのは秋からになりそうだ。

Intel Desktop Chipset Roadmap 推定図
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 メモリアーキテクチャについては、Intelは二股かけてリスクを分散するという方式を取る。GrantsdaleコアはDDR2-400/533とDDR333/400の両対応で来る。以前に書いた通り、そのためDDR2メモリの浸透のペースが比較的ゆっくりでも、Intelとしては対応ができる。Intelの自社製マザーボードも、ディスクリートの「Grantsdale-P」マザーボードはDDR2メモリなのに対して、グラフィックス統合チップセットの「Grantsdale-G」マザーボードはDDR2版とDDR版がある。

 2004年の第2四半期に出てくるGrantsdale-P/Gの新フィーチャは以下の通り。

◎Grantsdaleノースブリッジ
・FSB 533/800(1066MHzはTejasから)
・LGA775ソケット(mPGA478は非対応)
・PCI Express x16
・デュアルチャネルメモリ
・DDR2-400/533、DDR333/400
・内蔵グラフィックス(Gのみ)
・Intel Extreme Graphics 3(DirectX9準拠、Pixel Shader 2.0内蔵)

◎ICH6/ICH6Rサウスブリッジ
・PCI Express x1 4ポート
・Azalia次世代統合オーディオ技術(24bit、192kHz)
・PATA100 1チャネル
・SATA150 4ポート
・USB 2.0 8ポート
・PCI 6マスター

 以前レポートした時からの違いは、FSBに533MHzが加わったこと。これは、バリュー市場向けの「Prescott Value」がFSB 533になったからだ。ただし、FSB 533の場合は組み合わせられるメモリは、Grantsdale-P/GではDDR333だけとなっている。DDR2メモリは、パフォーマンス/メインストリームCPU(Pentiumブランド)に限るというわけだ。

 それから、メモリの総容量は4GBに“制約”されている。なぜ制約と呼ぶかというと、Grantsdale世代では算数の上では8GBが可能になるからだ。Grantsdaleの世代(2004年中盤~2005年中盤)で、DRAMは256Mbitから512Mbitへのビットクロス(bit当たりの単価が逆転する)が起こり、シフトが始まる可能性が高い。x4の512Mbitチップで2バンク構成ならUnbufferedモジュールが2GB。これを、2チャネルそれぞれ2DIMMで4DIMM搭載するなら8GBになってしまう。

 4GBの制約が技術上の理由か、それともメモリアドレス政策上の理由かはまだわからない。原理的には、DDR2-533ならまだ2Slots/2Banks(Ranks)は可能のはずなので、うまくマザーボードを設計すれば8GBはまだ到達できると見られる。しかし、IntelのIA-32アーキテクチャの場合は32bitメモリ空間(4GB)を越える場合には、「PAE(Physical Address Extention) 36」をチップセット側にも実装してページングでアクセスする必要がある。GrantsdaleはPAE 36をサポートしない方針かもしれない。

 コードネームGrantsdale-PGrantsdale-GGrantsdale-GVGrantsdale-GL
MCH/
GMCH
システムバス
1066MHz×(Tejas時?)×(Tejas時?)×(Tejas時?)×
800MHz×
533MHz
400MHz××××
システムバス帯域(最大)6.4GB/sec6.4GB/sec6.4GB/sec4.2GB/sec
対応パッケージ
LGA775
mPGA478××××
サポートメモリ
DDR2-533○(FSB 800)○(FSB 800)○(FSB 800)×
DDR2-400○(FSB 800)○(FSB 800)○(FSB 800)×
DDR400○(FSB 800)○(FSB 800)○(FSB 800)○(FSB 533)
DDR333○(FSB 533/800)○(FSB 533/800)○(FSB 533/800)○(FSB 533)
DDR266××××
デュアルチャネル
シングルチャネル○?○?○?○?
メモリモジュール4 DIMM4 DIMM4 DIMM2 DIMM
メモリ帯域(最大)8.5GB/sec8.5GB/sec8.5GB/sec6.4GB/sec
メモリ容量4GB4GB4GB2GB
ECC××××
Hyper-Threadingサポート×
AGP××××
PCI Express x16×
PCI Express x1
内蔵グラフィックス×Intel Extreme Graphics 3Intel Extreme Graphics 3Intel Extreme Graphics 3
CSA××××
量産出荷Q204Q204Q304Q304
ICHICHICH6/ICH6RICH6/ICH6RICH6/ICH6RICH6/ICH6R
USB 2.08888
ATA66/1001111
Serial ATA 1504444

●1チャネル当たり1DIMMしかサポートしない? 低価格チップセット

 もうひとつ面白いのはGrantsdaleファミリのうち、第3四半期に登場する低価格チップセット「Grantsdale-GV」「Grantsdale-GL」の構成だ。Intelは、この手の下ランクのチップセットでは、内蔵グラフィックスオンリーに制約することで価格を下げる。従来だったら、AGPポートを持たせなかった。

 ところが、Grantsdale-GVでは外付けのディスクリートグラフィックスはサポートしないにもかかわらず、PCI Express x16ポートは備えている。これはなぜなのか。それは、PCI Express x16はAGPとは異なり、グラフィックス専用ではなく汎用ポートだからだ。つまり、Grantsdale-GVでは、PCI Express x16にグラフィックスカードを挿しても機能しない(内蔵グラフィックスはディセーブルにできない)が、その他のデバイスなら挿せるということだと思われる。問題は、このPCI Express x16につくデバイスは何かという点で、当面は使われないかもしれない。

 Grantsdale-GVはこのPCI Express x16グラフィックスが使えないという制約以外は、ほぼGrantsdale-G相当の機能を備える。しかし、バリュー向けのGrantsdale-GLとなると、もっと話は違ってくる。まず、Prescott ValueがFSB 533なので、Grantsdale-GLもFSB 533しかサポートしない。それから、Grantsdale-GVとは異なり、完全にPCI Express x16も備えない。つまり、PCI Express x1しか備えない。

 ちなみに、Grantsdaleでは865/875シリーズがGigabit Ethernet(GbE)接続に使っている「CSA(Communication Streaming Architecture)」ポートはなくなる。その代わり、PCI Express x1ポート向けに新GbEチップ「Northway」を用意する。

 また、Grantsdale-GLはHyper-Threadingをサポートしない。このことは、Celeron系であるPrescott ValueはHyper-Threadingがディセーブルされていることを意味する。つまり、Pentium系とCeleron系の差別化のポイントは、Prescott世代でもHyper-Threadingのオン/オフになるわけだ。

 だが、それ以上に面白いのはメモリインターフェイスだ。Grantsdale-GLはデュアルチャネルメモリインターフェイスだが、1チャネル当たり1DIMMしかサポートしないことになっている。つまり、1チャネルしか実装しないで、2DIMMをサポートするという設計はできないらしい。PCベンダーが出荷時には1DIMM構成で、ユーザーがもう1DIMMをアップグレードできるようにしようとすると、2チャネルを実装しなければならない。

 ローエンドにも2チャネルメモリを強いるような、Intelのこのスペックは、おそらくグラフィックス機能と関係がある。MicrosoftのLonghornの新しい3Dユーザーインターフェイスのフル機能を使うためには、DirectX 9世代グラフィックスが必要となる。そして、DirectX 9世代の統合グラフィックスの機能を活かすには、デュアルチャネルメモリが必要になる可能性が高い。つまり、ローエンドの統合チップセットでもデュアルチャネルメモリが必須になる、Intelはそう考えているのかもしれない。

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【8月12日】【海外】IntelがPrescott戦略を加速、来年第2四半期には低価格版も投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0812/kaigai011.htm
【7月22日】【海外】この夏、Prescottが熱い。来年は消費電力100Wオーバーへ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0722/kaigai005.htm

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(2003年8月20日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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