大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

IBM vs NEC、
2つの異なるRefreshed PC(=中古PC)戦略


 日本IBMとNECが相次いで中古PC市場への本格参入を発表した。これまで中古PCといえば、ソフマップなどをはじめとするPCショップが販売するものというイメージが強かったが、いよいよPCメーカー自らが中古PCに乗り出すことになる。

 日本IBMの中古PCは、「IBM Refreshed PC」。そして、NECの中古PCは「NEC Refreshed PC」。いずれも、「Refreshed PC」という共通の名称を使用しているが、実は、この2つの中古PCのコンセプト、ターゲット、仕組み、そして生い立ちはまったく異なるものだといえる。


●リースアップ品を中心とするIBM

IBM Refreshed PC

 日本IBMの「IBM Refreshed PC」は、リース事業部門が中心となって推進されるものだ。

 同社では、'93年頃から企業からリースアップしたPCを再生し、再度、中古PCとして企業に販売するという取り組みを行なってきた経緯がある。

 例えば、かつては、OS/2といった独自のOSを採用したPCも発売していた同社だが、ユーザー企業においては導入しているPCがOS/2であるために、増設する際にどうしてもOS/2搭載PCが欲しいという要求がある。こうした場合、新品がないために、OS/2搭載の中古PCを販売するといった形での需要があったのだ。企業ユーザーを数多く抱える日本IBM特有の需要形態だといえる。

 しかしここ数年、個人ユーザーからも中古PCが欲しいといった需要が高まるのと同時に、販売店の間からも、中古PCを卸してほしいという要求が高まってきたことから、個人向けにも中古PCを流通するスキームを整備して、新たに「IBM Refreshed PC」の名称を用いて、個人向け中古PC事業を本格化したわけだ。

 現在、リースアップによるものが99%。今後、販売店での買い取りや、個人ユーザーからの買い取りなどを増やしていくことになるというが、当面、リースアップ品が中心になるのは間違いない。

 リース契約というと、一般的には4年から5年が標準的であるため、リースアップ品というのは、それだけの年数を経過したあとの製品という計算になる。だが、日本IBMの場合、独自に3年のリース契約を用意していることから、他のリース事業者に比べて経過年数が少ない比較的新しい中古PCが集まりやすいという特殊環境も見逃せない。リースアップ品とはいえ、商品力がある中古PCを品揃えすることが可能なのだ。


●個人からの買い取りを主軸とするNEC

 一方、NECの「NEC Refreshed PC」の場合は、個人ユーザーからPCを買い取ってこれを再生し、個人ユーザーに販売するというスキームを採用している。2000年1月からは、販売店が買い取った中古PCを、同社の関連会社であるNECカスタムサポートを通じて再生。それを販売店を通じて流通するというサービスを開始、数百台の実績があるが、今回新たに直接ユーザーから、NECが買い取るという仕組みを用意したわけだ。

 個人からの買い取りは、もともとは今年4月以降には実施したい、として以前から発表していたものだが、7月のNECパーソナルプロダクツの設立を待って、本格的なサービスに乗り出した格好だ。

NECパーソナルプロダクツPC事業本部マーケティング本部の小澤昇シニアエキスパート

 「この半年間、販売店との間で中古PCに関するパートナシップを結んだことで、個人から中古PCを買い取るノウハウを蓄積できた」(NECパーソナルプロダクツPC事業本部マーケティング本部・小澤昇シニアエキスパート)と、段階的に中古パソコン事業に乗り出したことがスムーズな仕組みづくりへとつながっている。

 買い取りの対象となるのは、2000年1月以降のPC。このタイミングは、特定のOSやアプリケーションの切り替え時期とは異なるが、「中古PCとしての商品価値があると判断できるひとつのタイミングとして設定した。今後、不定期だが、買い取るPCの対象時期を変更させることになる」としている。

 個人ユーザーは、ホームページ(121ware.com)を通じて買い取り価格を検索でき、これをもとに申し込むことができる。引き取りに関しては、NEC指定の業者が戸口回収を行ない、回収後、NECが現物を見て査定を行なう。傷や付属品の有無によって買い取り額が変化するため最終的な買い取り価格はこの段階で決定される。ユーザーがこれで承諾すれば、譲渡契約書などを交わして、買い取り価格から回収費用(1,400円)を差し引いた代金が、ユーザーに振り込まれる。査定価格が提示された段階で、もし買い取り価格が納得できない場合には、PCの返却を求めることができる。この場合の回収費用はノートPCが2,800円、デスクトップPCが5,600円だ。

【お詫びと訂正】初出時に承諾しない場合は回収費用がかからないと記載しておりましたが、この場合もかかります。ご迷惑をおかけいたしました関係者の皆様にお詫びするとともに訂正させていただきます。

 個人ユーザーにとってみると、全国どこに住んでいても、NECが代行業者を利用して戸口まで回収にきてくれること、外箱がすでになくっている場合でも、専用の回収箱を用意してくれることなど、メリットは多い。

 ただ、買い取り価格については、いまのところPCショップ店頭に持ち込んだ方が、若干高く買い取ってもらえるようである。


●OS、アプリケーションの搭載、サポートにも格差

 回収した製品の再生方法についても、「IBM Refreshed PC」と、「NEC Refreshed PC」には違いがある。

 日本IBMは、藤沢のリユース・センターの再生ラインを活用しPCをクリーンアップ、NECは、群馬のNECカスタムサポートの専用ラインを活用して再生するという点では、ほぼ同じ構図だ。それぞれにRefreshed PC専用の箱を用意するのも同じ。微妙な違いは、日本IBMがダンボールカラーそのものであるのに対して、NECは青色を使用したややきれいな箱を採用している点だろう。

 だが、大きな違いは日本IBMがOSおよびアプリケーションを一切インストールしない形で出荷するのに対して、NECは、OSおよび新品時にインストールしていたデバイスを動かすためのソフト、アプリケーションソフトは極力インストールするという点だ。

 アプリケーションに関しては、各社ごとに契約条件が違うため、メーカーがなかなか対応できにくいのが実態だ。だが、NECパーソナルプロダクツの小澤シニアエキスパートは、「ソフトメーカーによっては、中古PCにもそのままソフトのインストールが可能なところ、マイクロソフトのように条件付きでインストールが可能なところ、条件が明確に規定されていないところ、そして、すでにソフトメーカー自身が撤退している場合がある。そのなかから、インストール可能なものはなるべく同じ状況でインストールしたいと考えている」と話す。

 Windowsに関しても、マイクロソフトとの契約条件に則って、そのまま再出荷が可能なものはそのまま出荷し、回収時に再出荷のための要件を満たさないものは、NECが新たにインストールするという形になる。

 「中古PCに関しては、ソフトの著作権管理が一部で問題になっているが、NECの中古PCはこの点を完全にクリアしている」と話す。

 さらに、NECでは、6カ月間のメーカーサポート期間を用意している点も特徴だ。

 一方、日本IBMの場合は、OS、アプリケーションなどはインストールしないという手法を採用している。そして、メーカーからの直接サポートも行なわずに、基本的には販売店の中古PCのサポート体系を利用することになる。

 「リフレッシュドPCの名称のほかに、アプルーブドPCという名称も候補にあがったが、メーカーが最後まで保証するものではないということで、この名称をやめた」(日本IBMグローバル・アセット・リカバリー・サービスの安食直也セールススペシャリスト)という逸話もある。

 こうしたOS、アプリケーションソフトのインストールの有無、そしてサポートの有無は、自ずとユーザーターゲットの差にもつながっている。

 日本IBMの場合は、ThinkPadのブランド力もあって、どちらかというとマニアユーザーが主要ターゲットになる。実際、購入者は、OSやアプリケーションも自らインストールするという例が目立つという。

 一方、NECの場合は、「完全な初心者ユーザーは対象にしない」と前置きしながらも、「近くに教えてくれる人がいるといった場合には、そうしたユーザーも十分ターゲットになる」と、初めてPCを購入する層までも一部対象になることを示す。

 さらに、こんな点でも差がある。

 日本IBMは、新品PCの主要ターゲットが企業であり、コンシューマ向け分野といえども、ビジネスパーソナルを想定した層となる。そのため、中古PC事業では新品ではアプローチしていないようなコンシューマユーザーの開拓という側面を明確に打ち出すことができる。

 それに対して、NECの場合は、コンシューマ分野も新品PCの主要ターゲットであり、基本的な考え方も、「NECの新品PCに買い換えて頂くための買い取りサービス」として、中古PCの販売はやや補完的な色彩を持っている点が見逃せない。

 このように、同じ名称を冠にした日本IBMとNECの中古PCだが、その特性は大きく異なるといえる。


●実績はIBMが先行、NECは8月下旬か?

 ところで、再生された中古PCは、どうやって流通されるのだろうか。

 ここでは、先行している日本IBMの方が明確だ。日本IBMでは、すでに13社のPC専門店を通じて販売、ツクモやソフマップでは、IBM Refreshed PCの専用コーナーを用意するといった動きも出ている。

 「月に400~500台単位の出荷があり、これらは参加販売店によるオークション形式の落札で卸価格を決定すことになる。販売店のなかではすでに、初期出荷分を売り切ったところもある」(日本IBM・安食セールススペシャリスト)という状況だ。

 人気なのは、ThinkPad600シリーズや240シリーズ、Xシリーズなどだという。「なかには、企業が予備機として確保していた新品が出回ることもある」という目玉商材もあったという。

 現在は、取扱店はPC専門店が中心だが、「年内には、量販店などにも広げ、幅広い利用者に購入していただける仕組みを作りたい」としている。

 一方、NECは、Refreshed PCの制度を発表した翌日には、50件以上の問い合わせがあったが、「ある一定の台数がまとまらないと出荷できない」(NEC・小澤シニアエキスパート)として、まだ市場には出回っていない段階。また、「販売店への詳細説明がこれからであることや、どんな形で卸すのかといったことも今後決定する予定」だという。

 販売店への説明、制度の徹底のほか、数百台単位の一定の数量がまとまること、これを修理する時間が必要なこと、しかも、8月中旬には夏期休暇によって再生ラインが停止することなどを考えると、最初のRefreshed PCが市場に流通するのは、早くても8月下旬から9月ということになりそうだ。

 いずれにしろ、こうしたメーカーが直接乗り出す中古PCの登場によって、中古PCがより買いやすい環境になってきたのは明らかだ。さらに、10月の個人向けPCのリサイクル法の開始に伴って、リサイクル費用の支払いを嫌って、メーカーや販売店にPCを下取りに出すユーザーが増え、質の高い中古PCが出回る可能性を指摘する声もある。

 メーカーが中古PCに乗り出したことによって、これまで不安でちょっと買いにくいといったユーザー層も、安心して購入できるようになるだろう。メーカーの参入は、そのまま中古PC市場の活性化につながることになりそうだ。

□IBM Refreshed PCのホームページ
http://www-1.ibm.com/financing/jp/refreshedpc/
□121ware.comのサポートページ
http://121ware.com/support/
□関連記事
【7月2日】日本IBM、「IBM Refreshed PC」の名称で中古PC販売を強化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0702/ibm.htm
【7月22日】NEC、個人向けPCの買い取りサービスを開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0722/nec.htm

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(2003年7月28日)

[Text by 大河原克行]


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