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ニューコアテクノロジー 経営陣インタビュー
「イメージプロセッサ戦争が始まっている」



 デジタルカメラ用イメージプロセッサ「CleanCapture」を発表したニューコアテクノロジーは、デジタルカメラ用イメージプロセッサの開発・販売に特化した、ユニークな企業だ。日本人によりシリコンバレーで創業された同社は、Intel、Cyrix、Transmetaといった錚錚たる半導体企業のOBが経営陣に名を連ねていることでも、業界では以前から話題になっていた。

 そんなニューコアテクノロジー(以下、ニューコアと表記)のジェームス・チャップマン社長兼CEO、渡辺誠一郎CTO(最高技術責任者)に、イメージプロセッサとビジネスについて、同社のビジョンを語っていただいた。

 なお、CleanCaptureの詳細については、発表会レポートを併せて参照されたい。また、この記事は、CleanCapture発表前日の5月13日に、都内ホテルで行なわれたインタビューをもとに、編集部で再構成している。

ジェームス・チャップマン社長兼CEO 渡辺誠一郎CTO

●アナログ処理がCleanCaptureの鍵

NDX1260

 発表会レポートでも触れているとおり、CleanCaptureの鍵は「アナログ処理」にある。通常のデジタルカメラでは、撮像素子から出力されたデータをA/D変換し、その後ホワイトバランス調整などの画像処理を施す。

 が、CleanCaptureはA/D変換前のアナログの段階で、画像処理を行なうことで、よりノイズが少なく、きれいな階調の画像を生成する。アナログ段階での処理でノイズが減る理由を乱暴に言ってしまえば、デジタルデータの解像度が不足するため、ダイナミックレンジ(色再現能力)などが不足し、偽色やノイズ、階調差が発生してしまうが、アナログ段階で処理をしておけば、解像度不足によるノイズを抑えられる、ということになる。

 ノイズが減ることにより、ファイルサイズを減らせる、というメリットもある。“ノイズを描画するためのデータ”が不要になるからだ。

●ハードワイヤードでパフォーマンスを確保

 CleanCaptureに新たに搭載された機能に、「Skintone Ditect」がある。肌色などの特定の部分を抽出し、その部分だけを処理する機能だ。

 CleanCaptureはこうした複雑な処理をリアルタイムで、しかも静止画だけでなく、動画に対しても行なえるだけのパフォーマンスが実現されているのも特徴のひとつだ。これにより、3Mピクセルで30fpsの動画撮影なども可能になる。どのフレームを抜き出してもスチルカメラなみの画質があるため、動画から任意のフレームを取り出して静止画としてプリントする、といった使い方もできるわけだ。

 CleanCaptureでは、動画を処理できるだけのパフォーマンスを確保するために、パイプラインがハードワイヤードで実装されている。CPUやDSPのような汎用プロセッサでは、ソフトウェアにより様々な機能を柔軟に実現できるが、ハードワイヤードのプロセッサでは機能が固定されてしまう。その代わり、処理を高速にできるメリットがある。機能が固定されているという意味では、CleanCaptureは“プロセッサ”というよりは“エンジン”と呼んだほうがよいようだ。

 CleanCaptureの製造は、台湾の半導体製造企業TSMCが、0.13μmプロセスで行なう。動作周波数はCCDのデータ生成に同期するため、最大でも75MHz。0.13μmで製造されるチップにとって75MHzは、とても低いクロックだ。だからCleanCaptureはハイパフォーマンスにもかかわらず、渡辺CTOが「冷たい」と表現するとおり、放熱や消費電力の点でも有利にできているうえに、製造時の歩留まりも高くできる。なお、消費電力は動作モードによって変わるが、アナログプロセッサの「NDX1260」が30~100mW、デジタルプロセッサの「SiP1270」が200~400mWとなっている(いずれも50MHz動作時)。

Skintone Ditectで肌色だけを抽出したところ。設定により、どんな色でも抽出できる ハードワイヤードのパイプライン パラレルプロセッサであるCleanCapture(左)と、ソフトウェアに依存するDSPの処理の比較

●CPUよりエキサイティング

 チャップマン社長は2002年1月まで、x86互換CPU「Crusoe」でおなじみのTransmetaの副社長だった。移籍の理由を「ニューコアの技術は、見たこともない、エキサイティングなものだった。また、デジタルカメラ市場はPCよりも成長率が高く、Transmetaで様々な日本企業と関わった経験も生かせるから」と語る。

 つまり、CleanCaptureはCrusoeよりもエキサイティングな製品ということだろうか? と聞くと「それは誘導尋問ですね(笑)、イエスと言わざるをえません」と笑ってから、顔を引き締めてこう語った。「イメージプロセッサ戦争が始まっているのです」。

 たとえばキヤノンは“DIGIC”(キヤノン製映像エンジン)を、製品の差別化ポイントにしている。CCDの高画素化や低価格化などが進んだ現在、デジタルカメラの性能をアピールするために、イメージプロセッサが重要な役割を果たすようになってきていると、ニューコアは主張する。

 だが、多数のメーカーがデジタルカメラ市場に参入しているにも関わらず、キヤノンのように自社でイメージプロセッサを開発できる企業は、ごくわずかだ。ほとんどのデジタルメーカーは他社が開発したものを調達しているか、共同開発している。ニューコアが狙う市場はまず、自社でイメージプロセッサを開発できない多数の企業だ。

●ニューコアはチップ“も”売る

SiP1270

 イメージプロセッサの開発能力を持たない企業にフォーカスする姿勢は、CleanCapture自体にも現れている。

 SiP1270に新たに汎用組み込みプロセッサ「ARM9」のコアを取り込んだこともその1つだ。ARM9はイメージプロセッシングにはほとんど関わっていない。ARM9が担当するのはオートフォーカスや露出制御、カメラシステムの制御など、いわゆる「ハウスキーピング」と呼ばれる部分だ。画像処理とは直接関係ないが、ARM9が内蔵されていることでメーカーの開発はぐっと楽になる。また、ARMならソフトウェアにより、画像処理機能を追加することもできる。

 また、TSMCに製造させたチップを出荷しているのも、デジタルカメラメーカーの負担軽減の一環と推察される。ニューコアのようなファブレス企業なら、わざわざチップにして販売しなくても、ARMやMIPSのように、プロセッサコアの開発製造権を売るIP(Intellectual Property=知的財産)ビジネスなどの形態も考えられる。実際、チャップマン社長も「様々な方法が考えられる」と、チップ販売以外のビジネスを検討していることをうかがわせている。だが「我々はチップも売る」と明言するのは、開発から製造までを請け負うことで、デジタルカメラメーカーの負担を減らそう、という意図のようだ。

●CleanCaptureでデジタルカメラ全体を底上げ

開発ツールの1つ、製品評価キット

 ニューコアは、長期的には自社開発能力のあるメーカーのイメージプロセッサの開発、製造まで踏み込みたい意向だ。「例えばキヤノンはDIGICの開発に4,000万ドルものお金を費やしています」(チャップマン社長)。ニューコアはこうした膨大な開発費や開発期間を、自らの手法で削減、短縮できるとしている。チャップマン社長はさらに「15年前、Compaqはビデオチップやチップセットまで、自社で作ろうとしました。が、これは経済的ではなかったため、あきらめました」と例をあげ、PC業界と同じように、デジタルカメラ業界でも分業が進むだろうという観測を述べた。

 だが、なぜニューコアなのだろうか。イメージプロセッサを自社開発できないデジタルカメラメーカーは、Analog Devicesのような総合アナログ製品ベンダーから調達してきた。渡辺CTOはニューコアならではの強みを「デジタルカメラに100%にエネルギーを注ぎ込んでいる集団であり、カメラメーカーとの対話の密度も濃いと自負している。また、(ニューコアの)シリコン屋としての視点で見つけられるソリューションもある」と語る。

 “シリコン屋”としての視点は、例えば充実した開発環境を生んだ。ツールや環境を整備し、ビルディングブロックを形成することでメーカーをサポートする手法は、IntelやTransmetaでキャリアを積んできたニューコア経営陣にとっては、あたりまえのものだったのだろう。

 ビルディングブロックにより、デジタルカメラメーカーの負担が軽減され、そのメーカーならではの「絵作り(チューニング)」にリソースを振り向けられるようになる、というのがニューコアのビジョンだ。

●本当に差別化できるのか

 なお、発表会ではCleanCapture搭載製品の登場を「2003年第3四半期」としていたが、インタビューの席上、チャップマン社長は「数週間のうちに搭載製品を見ることができるだろう」と述べている。

 搭載製品の実力や、CleanCaptureならではのコンセプトを備えた製品への期待など、注目すべき点は多い。一方で、ニューコアの持ち込んだビルディングブロックが「平均点以上だが似たような製品」ばかりを産み出し、デジタルカメラ業界の活性化に繋がらないという懸念も一部から提示されている。さらに、ニューコアが主張するような“絵作りによる差別化”が、エンドユーザーにどれだけ訴求するか疑問、という意見もある。

 “イメージプロセッサ戦争”は、始まったばかりだ。

□ニューコアテクノロジーのホームページ
http://www.nucore.co.jp/
□関連記事
【5月14日】ニューコア、デジカメ用イメージプロセッサ「CleanCapture」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0514/nucore1.htm

(2003年5月14日)

[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]


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