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ATIの次世代GPUは
「Programable Shader 3.0+PCI Express x16」




●ATIの次の1年の動きは?

 RADEON 9800(R350)でGeForce FX 5800(NV30)を迎え撃つATI Technologies。彼らの次の手「R400」はどうなるのか。

 実は、各社の次世代GPUの仕様はある程度までは予測できる。それは、Microsoftの「Programable Shader 3.0」とIntelのPCI Expressチップセット「Grantsdale(グランツデール)」が控えているからだ。2004年前半をターゲットにするGPUは、必ずShader 3.0とPCI Expressを意識しなければならない。ATIで言えば、R400がその世代になる可能性は高い。

 また、そこから逆算すると、次世代GPUまでにATIはもう1つ改良版GPUを持たなければならないこともわかる。それは、Shader 3.0+PCI Express世代まで半年以上の間が開いてしまうからだ。そこにNVIDIAはNV30の拡張版の「NV35」を用意している。そうすると、ATIが現在のリードを維持しようとするなら、論理的に考えれば“R350改”のようなGPUを繰り出す必要がある。

 とすると、ATIはこれから来春までの間に、R400以外にもう1つ(またはそれ以上)のハイエンドGPUを繰り出してくるものと推測される。

●各社の次世代GPUはShader 3.0対応へ

 もともと、ATIはR3xx系の後継アーキテクチャである「R400」を、0.13μmプロセスで今年中盤に持ってくるはずだった。現在のRADEON 9700/9800(R300/350)は0.15μmだが、0.13μmへ移行すると同時にアーキテクチャも革新するはずだった。しかし、現在、R400は後ろへスケジュールがずれていると言われる。

 これは、じつは納得できるストーリーだ。というのは、この先に、MicrosoftのDirectXのShader 3.0が控えているからだ。Shader 3.0は現在のDirectX 9に含まれているProgramable Shader 2.0の発展型となる次世代Shaderアーキテクチャだ。最大のポイントは、Vertex Shaderにテクスチャアクセス機能が加わることと、Pixel Shaderにフローコントロール系命令が加わること。Shader 3.0のスペックはDirectX 9のSDKで参照できるようになっている(DirectX 10になるかどうかはまだわからない)。

 Shader 3.0は、現在は「スペックが策定された段階」(GPU業界関係者)。しかし、Shader 3.0を実装したGPUの開発はすでにスタートしているという。実際の対応GPUが登場するのは、論理設計+物理設計+検証の期間を考えると、最速で今年末、余裕を見ると来年前半ということになる。もちろん、今からGPUを設計していたら間に合わないが、実際にはGPUメーカーは規格策定の段階からキーフィーチャは設計に入れ込み始めている。

 実際、S3 GraphicsやTrident Microsystemsは、今年1月の段階で、2004年のGPUでShader 3.0への対応を明らかにしている。もともと今年末の予定だったNVIDIAの「NV40」も、Shader 3.0対応の可能性が高い。

 そして、ATIも、3月に開催されたGDC(Game Developers Conference)ではShader 3.0への対応を示唆した。例えば、Jason L. Mitchell氏(Project Team Leader, 3D Application Research Group)は、Shader 3.0については来年のGDCではもっと実際の話ができる、と発言。また、ATIのAndrew B. Thompson氏(Director, Advanced Technology Marketing, ATI Research)も「我々はまだ3.0シリコンを持っていない。しかし、Microsoftとは3.0の定義では密接に協力してきた。3.0チップの設計はもちろんしている(we certainly have 3.0 silicon in design)。しかし、いつそれを市場に出すかはまだ決まっていない」と述べている。

 ATIが次世代GPUでShader 3.0に対応するのは自然な流れに見える。というのは、後ろにShader 3.0が控えているとなると、ATIがNVIDIAのようにShaderアーキテクチャを独自に大きく拡張したGPUを出しても意味は薄いからだ。

 また、ATIは現在、DirectXのShaderスペックに準拠していく方針を示している。例えば、Thompson氏は「NVIDIAは、(GeForce FXのアーキテクチャについて)DirectX 9+のようなマーケティングをしている。これは混乱と誤解を招くと考えている。現実的に重要な仕様はShader 2.0またはShader 3.0で。他はそれほど重要ではない」と強調する。つまり、ATIはShader 2.xのような拡張は重視しないというわけだ。ATIが中間的なShader拡張をしないとすれば、次のGPUアーキテクチャ(R400)はShader 3.0対応の可能性が高い。

●PCI Express x16への対応に積極的なATI

 これにPCI Expressが絡む。Intelは来年春のチップセット「Grantsdale(グランツデール)」から、グラフィックスの接続に「PCI Express x16」を採用する。同様に、モバイルでも「Alviso(アルビソ)」でPCI Express x16を導入する。PCI Express x16とAGPには互換性がない。そのため、GPUもAGP/PCI Express x16両対応ではなく、どちらか一方の対応へと向かう。

 そのため、ATIも次世代GPUはPCI Expressへ向かうと見られる。実際、Intelが2月に開催した開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」ではATIのGord Caruk氏(ATI Technologies, Architect, ASIC Design)が、「全製品ラインに、トップツーボトムでPCI Expressを導入するだろう」と説明した。ちなみに、ATIはAGP 8xにもいち早く対応、Intelが対応チップセット「Intel E7205(Granite Bay:グラナイトベイ)のサンプルでAGP 8xの動作検証を行なった時は、検証用のGPUを唯一提供していた。

 IntelはGrantsdaleのエンジニアリングサンプルを今年第4四半期に顧客に出荷する予定だ。とすると、ATIもその時までにPCI Express x16対応GPUのシリコンを完成させていると推測される。もちろん、そのGPUの市場投入はGrantsdaleが登場する来年4~5月期となるだろう。

 こうした背景を考えると、今後のGPUの流れが見えてくる。少なくとも、来年第2四半期に出てくるCPUは「Shader 3.0+PCI Express x16」となる。では、ATIの製品計画はどうなるのか。いくつかの推測ができる。

 まず少なくとも明らかなのは、「Shader 3.0+PCI Express x16」GPUの前に1つGPUがあることだ。現在、ATIは2四半期に1回のペースでハイエンドGPUを世代交代させている。NVIDIAも同様のペースの世代交代になると説明している。とすると、来春までRADEON 9800でいくとは考えられない。また、ご丁寧なことに、ATIは9700→9800と進んでおり、9900という型番は空けてある。

 では、RADEON 9800からShader 3.0世代GPUまでにもう1つ製品があるとして、それはどんなGPUになるのか? ひとつ明確なことは、0.13μm製品になるということだ。

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●0.13μm化が求められる今年後半のGPU

 ライバルのNVIDIAは、フラッグシップのGeForce FX 5800に0.13μmプロセスを使っている。それに対して、ATIはRADEON 9800でも、RADEON 9700同様に0.15μmプロセスを採用した。NVIDIAもATIも、製造を委託しているのは台湾ファウンダリのTSMCだ。この違いはなぜなのだろう。

 「もし、RADEON 9800がRADEON 9700をベースにしないで、ゼロから設計していたら、0.13μmを使っていただろう。しかし、RADEON 9700からの改良の方が、ずっと設計の作業量が少なくて済む。設計作業が少なければ、(設計が)安くつくし、迅速に開発できる。そのため、0.15μmに留まった」とThompson氏は説明する。

 つまり、設計期間と作業量の問題だったというわけだ。実際、ATIも、TSMCの0.13μmプロセス自体はすでに十分に利用できると説明している。実際、メインストリーム向けのRADEON 9600(RV350)には0.13μmを採用した。「0.13μmプロセスは、現在では問題はない。我々はRADEON 9600の量産に移っているし、歩留まりは問題がない」とThompson氏も説明する。

 もっとも、半導体の製造という側面で見ると、良品率はウエーハ上のディフェクト(欠陥)密度(Defect Density)×単位面積当たりのダイ(半導体本体)数で左右される。そのため、原則的にダイが小さなチップの方が、早い時期に新プロセスへと移行させやすい。つまり、RADEON 9800の半分程度のトランジスタ数のRADEON 9600の方が0.13μmに移しやすい。

 しかし、ファウンダリ側のラインのディフェクト密度は、量産が進むに連れて下がってくる。そのため、今年後半になると、0.13μmのフラッグシップGPUはコスト面でも0.15μmより有利になり始める。性能は言うまでもなく高クロック化が容易な、0.13μm版の方が高い。そのため、ATIも今年後半には必ず0.13μmへの移行は考えなければならない。特に、NVIDIAが、0.13μmでGeForce FX 5800の後継となる2世代目の「NV35」を用意しているとなるとなおさらだ。

 実際、ATIはすでにハイエンドGPUを0.13μmへ移行させる準備は整っている。というのは、RADEON 9600で主要なユニットの0.13μm上での物理設計は済んでいるからだ。RADEON 9600とRADEON 9700/9800系には、GPU内部の機能ユニットにほぼ変わりはない。「RADEON 9600は9800をベースにしている。唯一の違いは、パイプライン(の数)だ。RADEON 9600が4パイプ4 Shaderで、RADEON 9800が8パイプ8 Shaderと半分になっている。RADEON 9600では、何もShaderの効率を落とすような設計変更は行なっていない」(Thompson氏)

 つまり、単純にパイプライン数の違いだけで、Shaderユニットなどの構造は全く同じというわけだ。ということは、RADEON 9600(4パイプ)での設計データベースを流用すれば、8パイプ設計にかかる作業量は(フルに設計する場合と比べて)比較的少なくて済むことになる。ある程度の設計変更をする余裕もあるだろう。

 まったくの推測だが、もしATIがそうしたR350の0.13μm版の設計をRADEON 9600と平行して進めていたのなら、8月のCGカンファレンス「SIGGRAPH」の頃には発表できるかもしれない。ATIはこれまでSIGGRAPHに合わせて製品を発表してきた。ちなみに、RADEON 9800の国内発表の際に、ATIテクノロジーズジャパンは、K. Y. Ho(KY・ホー)会長兼CEOが8月に来日する可能性があると話している。

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●Shader 3.0+AGP 8xという組み合わせも

 もうひとつの可能性は、Shader 3.0対応GPUのAGP 8xバージョンを作ることだ。PCI Express x16市場の立ち上がる時期は、おそらくShader 3.0対応が可能になる時期と1~2四半期のずれがある。また、PCI Express x16は全く新規のインターフェイスであるためハードルが高い。しかも、AGPに対する互換性がないため、何か問題が発生した場合もAGPで動作させることはできない。つまり、問題があってシリコンを設計し直すことになったりすると、製品出荷自体が1四半期遅れてしまう。そう考えると、ATIがPCI Express x16対応GPUだけで製品計画を立てるとは思えない。

 こうした場合にGPUメーカーがどういう設計を行なうか。よくあるのは、GPU上の一部のブロックをまるまる入れ替えた2バージョンを設計する。他のブロックの物理設計は変えずに、そのブロックだけを変えられるようにする。今回のケースで言えば、ダイ(半導体本体)上の面積が大きいPCI Express x16に合わせてインターフェイスブロックのスペースを取り、そこに従来のAGP 8xのブロックを入れたバージョンを作ると想像される。そうすれば、設計コストは最小で済む。

 Shader 3.0の実装がもし年内に間に合うとすれば、こうした「Shader 3.0+AGP 8x」選択肢も考えられる。というか、R350系アーキテクチャを0.13μmに持ってくる製品と、同じく0.13μmのShader 3.0+AGP 8xの製品の両方が存在する可能性もある。

 ATIはNVIDIAと比べると情報の漏れが少ないため、製品ロードマップは不鮮明だ。ここに書いたのも、R400が後ろへずれたこと以外は、推測に過ぎない。また、“R400”というコードネームの製品の中身が、この推測のどれに当たるのかもわからない。しかし、ATIがShader 3.0とPCI Express x16のサポートに熱心であることを考えると、大まかなコースと、どんな選択肢がATIにあるかの推測はできる。波に乗った今のATIを考えると、もっともアグレッシブなプランを取ってくる可能性も高い。

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【4月7日】違いは小さいが方向性が異なるRADEON 9800とRADEON 9700
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0407/kaigai01.htm

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(2003年4月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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