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DirectX 9世代のGPU戦略
~0.13μmに賭けるNVIDIA


●DirectX 9に注力するNVIDIA

 NVIDIAのDirectX 9世代GPU戦略のポイントは次の4点だ。

(1) ハイエンドからバリューまでの派生品を早期に展開
(2) 0.13μmプロセスで製造
(3) DirectX 9を拡張したアーキテクチャ「CineFX」
(4) GPUと同時にシェーディング言語Cgを導入

 (1)のファミリ展開に関しては、以前のコラム“NVIDIA、DirectX 9世代のGPU「NV30」を今秋発表”でレポートした通りだ。NVIDIAは、ハイエンドの「NV30」だけでなく、メインストリームとモバイル向けのNV31、そしてバリュー向けGPUと統合チップセット向けコアをほぼ並列に開発している。おそらく、来年中にはこれらのファミリが全部展開される見込みだ。

 下の「NVIDIA推定ロードマップ」図が、現在判明あるいは推測されるNVIDIAのGPUのロードマップだ。これを見ると、NVIDIAが一気にDirectX 9化を進めようとしているのがよくわかる。また、ハイエンドではNV30のデュアルGPU構成ボードも用意するとも言われている。

NVIDIA推定ロードマップ
 ただし、NVIDIAのスケジュールは、現在、揺れており、この推定通りに推移するかどうかはまだわからない。直近の製品すらスケジュールがいまひとつ定かではないのが現状だ。例えば、NVIDIAはNV30の前に、AGP 8Xサポートの「NV28」(GeForce 4 Ti=NV25の派生品)と「NV18」(GeForce 4 MX=NV17の派生品)を準備している。しかし、これらも、夏前からウワサされていたにも関わらず、まだ登場していない。

●常に最新プロセスを使いたがるNVIDIA

 NVIDIAのDirectX 9世代「NV3xファミリ」は、(2)にあるように、すべて0.13μmで製造されると見られる。これは、ATI TechnologiesがDirectX 9世代の「RADEON 9700(R300)」に、既存のプロセス技術0.15μmを組み合わせたのとは対照的だ。

 プロセスの微細化の利点は、高クロック化を容易にし、消費電力を下げ、ダイサイズ(半導体本体の面積)を小さくすることでコストを下げることにある。つまり、NV30はRADEON 9700より、原理的に高クロックで消費電力が低く、最終的には低コストになる。いいことづくめのようだが、その反面、最初のうちは歩留まりが悪く、立ち上げに時間がかかる場合があり、設計のハードルも高くなるという大きな難点がある。そのため、最先端プロセスを、新アーキテクチャのGPUに採用するのは、ややギャンブルとなる。

 だが、NVIDIAはこれまでも常に先端プロセス技術をライバルより先に採用してきた。つまり、必ずギャンブルに手を出してきた。

 下が過去3年間を振り返ったNVIDIAとATIのハイエンドGPUのプロセス技術の移行図だ。0.18μmのGeForce2GTS対RADEON、0.15μmのGeForce3対RADEON 8500、いずれもNVIDIAの方がATIをプロセス技術で必ずリードして来た。そのために、NVIDIAの方が新アーキテクチャのGPUを先にリリースすることができた。つまり、大胆な最先端プロセス技術の採用が、NVIDIAの強さのひとつだったのだ。

GPUトランジスタ図 プロセス技術の移行図

 しかし、今回に関しては、この戦略は裏目に出たようだ。NVIDIAがNV30で手間取っている理由のひとつが、0.13μmプロセスだからだ。そして、そのために最新アーキテクチャを古いプロセスに載せたATIに追い越されたからだ。

 GPUが利用できるファウンダリのプロセス技術は、約1年毎に世代が交代している。メジャー世代の0.18μmが2000年前半に、ハーフ世代の0.15μmが2001年前半にGPUで利用できるようになった。ところが、次の0.13μmプロセスは期待された2002年前半には来なかった。これは、0.13μmプロセスの技術的なハードルが高く、歩留まり向上で手間取ったからだ。そのため、0.15μmは1年半~2年と、誰もが予想しなかったほど長く残ることになった。これが、NV30が遅れている原因のひとつとなっている。

●NV30のスケジュールは?

 NV30の最大の問題はスケジュールだ。以前のコラムでもレポートした通り、7月後半の段階では、NV30はまだテープアウト(物理設計を完了)していなかったと見られる。これに関しては、複数の情報があり、ほぼ確実と見られている。しかし、NVIDIAはその後、8月にNV30をテープアウトしたようだ。では、NV30の今後のスケジュールを検分してみよう。

 テープアウト時期を考えると、NV30は、現在マスク作成中だと推測される。マスク作成にかかる時間はマスク枚数に左右され、メタルレイヤ数が増えるほどマスク数は増える傾向にある。通常、マスクショップでマスクを制作する場合、1カ月ほどかかる(1レイヤにつき2~4日)。

 しかし、NVIDIAがファウンダリとして使っているTSMCは、インハウス(自社内)のマスクショップを持っている。このマスクショップを使うと「インハウスだから、完成したマスクからどんどん製造工程に流すことで、時間短縮を図ることができる」(TSMC、Dr. Edward K. Chang氏、Marketing Manager、Platform Technology Marketing Division)という。ただし、それでもサンプルが出るまでにテープアウトから6週間はかかると見られる。

 サンプルが出たら、次に検証(qualification)作業に入る。これに通常は1カ月半から2カ月がかかる。そして、バグフィックスをして、再度マスク再生とサンプル出しをしてテスト。それでOKだったら、量産に入るわけだ。実際には、量産ウェハを流して、パッケージングを終えて出荷できるまでのタイムラグも加わる。そのため「量産開始までの全プロセスは通常6カ月かかる」とTSMCのChang氏は説明する。このセオリーの通りで行くと、NV30の出荷は2003年の2月頃になってしまう。

●0.13μm版で再びATIとの戦争が

 しかし、この期間を半分にすることも不可能ではない。TSMCのChang氏は、その方法を次のように語る。

 「顧客によっては、製品の仕上がりに自信を持っていて、最初のサンプルで『OK、これですぐに3000ウェハをスタートしてくれ』という場合がある。我々は、これをリスク生産(risk production)と呼んでいる。すべては顧客の要請次第だ。顧客によっては、3カ月前に製品を投入できれば、大きな成功を納めることができるが、3カ月後では市場を失ってしまうというケースがある。例えば、CPUでもっとも利益を上げられるのは最初の2~3カ月だ。だから、危険を冒しても量産を急ぐ顧客がいる」

 NVIDIAのケースがまさにこれに当てはまる。つまり、NV30が年内に登場できるのは、最初のサンプルのできがよくて、リスク生産を行なった場合となる。そのため、もし、最初のNV30シリコンに致命的なバグが見つかると、NVIDIAはスケジュールが遅れるだけでなく、経済的にもダメージを被ってしまう。

 また、もたもたしていると、ATIが予定しているRADEON 9700アーキテクチャの0.13μm版である「R350」も迫ってきてしまう。R350は来年前半と見られており、これが登場すると、NVIDIAは製造プロセスでの利点(クロック、消費電力、ダイサイズ)なども保てなくなってしまう。

 スケジュールに関しては、NV30に続くファミリ製品についても同じことが言える。NVIDIAはNV30と平行して、メインストリーム&モバイル向けのNV31系コアの開発も行なっている。6月の段階では、NVIDIAはNV31を年末までに投入するつもりだった。しかし、複数の情報筋によるとNV31は、まだいくつかの問題を抱えておりスケジュールが遅れているという。こちらも、ATIのメインストリーム向けDirectX 9世代GPU「RV350」とのレースにさらされる。

 だが、NVIDIAのアドバンテージはプロセス技術だけではない。むしろ、NV30ファミリのアーキテクチャ拡張とCgの方が、真のアドバンテージだと言える。NVIDIAは、DirectX 9を拡張したアーキテクチャをNV30に採用することで、「RADEON 9700の上を行く」(NVIDIA、David B. Kirk氏、Chief Scientist)という。では、NVIDIAはDirectX 9をどんな風に拡張するのだろう。それは明日のコラムでレポートしたい。

□関連記事
【7月31日】【海外】NVIDIA、DirectX 9世代のGPU「NV30」を今秋発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0731/kaigai01.htm
【7月26日】NVIDIA、Cgコンパイラをオープンソース化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0726/nvidia.htm

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(2002年9月5日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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