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Timnaのテクノロジを引き継ぐBanias
--IDF-Jラウンドテーブル(2)


Shmuel Eden氏(左)とAnand Chandrasekher氏(右)

 先週開催されたIDF-Jでは、Intelのモバイル/デスクトップのキーパースンを囲んでのラウンドテーブルも行なわれた。

 今回は、モバイルを統括するAnand Chandrasekher副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President/General Manager, Mobile Platform Group)との、ラウンドテーブルやQ&Aセッションでのやりとりをまとめた。

 ラウンドテーブルには、Baniasのエンジニアリングマネージャを務めるShmuel(Mooly) Eden氏(General Manager, Intel Israel(74) Ltd.)も同席していた。質問の中には、後藤以外の同席者のものも含まれている。


●Baniasに引き継がれるTimnaのテクノロジ

[Q] Baniasは「Special Sizing Techniques」と呼ぶテクノロジでCPU設計を回路レベルから見直して縮小するとIntelは説明している。Intelは、以前「Timna(ティムナ)」でダイサイズ(半導体本体の面積)を縮小する様々な技術を採用した。TimnaとBaniasのテクノロジは、共通しているのか。

[Eden氏]まず最初に、あなたの観測は正しい。Timnaの開発チームと同じチームがBaniasも開発している。私自身、Baniasのマネージャになる前は、Timnaのマネージャだった。同じチームが手がけるのだから技術的な関連があるのは当然だろう。Timnaに使ったいくつかのテクノロジは、より改良されてBaniasに使われている。Timnaの時は、コスト削減のためにダイを小さくすることに非常にフォーカスした。Baniasは、パワーパフォーマンスのために集中している。だが、技術は関連している。

[Q] あなたのチームが最初に手がけたCPUは「Tillamook(ティラムーク、0.25μm版MMX Pentium)」だったとインテル日本法人から聞いた(Eden氏はTillamookのダイを貼り込んだケースを持っていた)。

[Eden氏] そうだ。Tillamookは非常に成功した製品だった。

[Q] 私は、インテル日本法人のエンジニアがTillamookを賞賛していたのを憶えている。極めて迅速に0.25μmへの移植を達成し、しかも、最初のシリコンから完全に動いたと聞いた。

[Eden氏] ああ(笑)、そうだ。迅速にデザインをしたので随分評価された。

[Q] そうすると、イスラエルチームはTillamook、Timna、Baniasと開発してきたのか。

[Eden氏] 正確には、Tillamook、それからある製品があり、Timna、Baniasだ。我々は、かなりの経験を積んでいる。


●アグレッシブなクロックゲーティングで電力密度を下げる

[Q] Timnaは驚異的にダイが小さい、素晴らしい設計だった。しかし、ダイが小さくなると、その分電力密度(Power Density)が高まってしまうのではないのか。

[Eden氏] いや、我々のインプリメントでは、まったくそんなことはない。まず、原則的に言えば、技術的にはあなたの言っていることは正しい。そして、電力密度が高いから電圧を下げるなら、すべてを失ってしまう(パフォーマンスが下がる)。

 しかし、我々は、電力密度を下げるために、非常に進んだクロックゲーティング(clock gating)技術をBaniasにインプリメントした。この技術は、(プロセッサ内部の)ある部分が必要で、ほかの部分が必要ない場合、必要ない部分をシャットダウンする。例えば、外部メモリを読みに行くのなら、すべてをシャットダウンしてしまう。このクロックゲーティングをしないと、確かに電力密度は(CPUを)殺してしまうだろう。

[Q] Baniasのクロックゲーティングは、Pentium 4-Mの同じ機能よりかなり拡張されているのか。

[Chandrasekher氏] 非常に非常に拡張されている。アグレッシブにクロックゲーティングを行なう。

[Q] クロックゲーティングが最初にインプリメントされたのは、StrongARMだったと記憶しているが、技術的な関連性はあるのか。

[Eden氏] そうではない。クロックゲーティングのテクノロジ自体はかなり前からあった。違いは、どれだけクロックゲーティングを拡張するか、どれだけ完全にシャットダウンするか、といった点にある。

 いい例えがある。私の家はしばしばクリスマスのように電気がついている。もったいないから、電気を消したいわけだ。そこで、1階の電気を消すが、2階にはまだ電気がついている。そうすると、どこまで消しに行くのかが問題になる。また、その逆に使う時には電気をつけなければならないから、早めに(電気をつけに行く時を)予測しなければならない。クロックゲーティングも同じことで、どれだけ拡張するか、どれだけスマートにやるかで違ってくる。

[Q] システムバスの消費電力はどうなのか。Pentium 4はバス自体が結構、高消費電力だ。Baniasではバスも低消費電力に改良されていないのか。

[Chandrasekher氏] まだ詳細は公開していない。ああ、でも、もしあなたが仕事を欲しいなら紹介しよう(笑)。


●BaniasはCPU自体が省電力制御機能を持つ?

[Q] 現在のIntelの省電力テクノロジSpeedStepは、OS側のソフトウェアが必要だ。BaniasとOdemに搭載される省電力機能も同様なのか。

[Chandrasekher氏] ノー。今日のSpeedStepはOSの一部だが、Baniasは違う。

[Eden氏] 質問が、何かアディショナルなソフトウェアが必要かという意味なら、答えはノーだ。それは、プロセッサとチップセットが、それぞれ自分自身で状況や状態を確認するという意味だ。OSの助けは必要ない。

[Q] どんなOSを使っても、省電力機能は有効ということか。

[Eden氏] そうだ。

[Q] Baniasは自己の負荷状況を自己検出できるわけか。

[Eden氏] 自動的に……。

[Chandrasekher氏] その先は、今後のお楽しみだ。

[Q] Baniasでは、無線LANをチップセットに統合するのか。

[Chandrasekher氏] その通りだ。チップセットに統合する。初期のステージでは、我々自身の無線LANシリコンを(チップセットと一緒に)提供する。これは802.11a/bデュアルの方向を考えている。業界と、無線LANのプラットフォームへのバンドルについて調整している。

 無線LANでは、パワーマネージメントも重要だ。無線がオンになると4W程度を消費してしまうからだ。もうひとつの側面は、インテリジェントローミングだ。例えば、企業内でミーティングルームからオフィスへ移動しても、シームレスに接続し続けることができるようなローミングだ。

[Q] IEEE 802.11g規格も統合することは考えないのか。

[Chandrasekher氏] いや、我々のプランは、IEEE 802.11a/bデュアルのままだ。というのはIEEE 802.11gは規格自体がまだ確立されていないからだ。IEEE 802.11gはまだ規格策定のステップにあり、スタンダードが承認されたら対応をする。


●熱設計枠はA4ノートでは今後変更あり

[Q] ノートPCに搭載するCPUの熱設計枠(Thermal Envelop)は、サブノートが7W、ミニノート(B5ファイルサイズ)が12W、フルサイズノートが30WとIntelは説明していた。このThermal Envelopは、これからもキープされるのか。それとも、次第に大きくなって行くのか。

[Chandrasekher氏] モバイルでは、現在はThermal Envelopをどうするのか検討している。もっとも、ミニノートやサブノートは、必ずしも変える必要がないと考えている。これらのカテゴリでは、(Thermal Envelopへの要求が)よく研究されており明確だからだ。

 しかし、フルサイズノートPCのThermal Envelopは、まだ変えるチャンスがあると考えている。まず、フルサイズがより小さく軽量化される方向。長いバッテリライフやモビリティのほかの機能へのニーズを考えると、明らかにもう一度Thermal Envelopがどうあるべきかを見直す必要があると思う。一方、デスクトップ代替ノートでは、Thermal Envelopを大きくする可能性があると考える。このセグメントでは、バッテリは時折しか利用されず、ニーズは大きく異なる。

 つまり、我々としては、すでに確立しているセグメントではThermal Envelopを変えるつもりがない。しかし、一部動きのあるモバイル市場セグメント、つまり、新セグメントが産まれつつあるところでは、何が適切なThermal Envelopかを見直す必要があると考えている。

[Q] ノートPCの省電力化とTDPを抑えるためには、CPUとチップセット以外のデバイスの対応も必要だ。

[Chandrasekher氏] そうだ。2回前のIDFで、我々はCPUとチップセットは、プラットフォームの全体の消費電力のうち30%しか占めていないと語った。我々は、その30%を下げ続けるためのR&Dは続ける。そして、また、残りの70%分の部品についても電力消費を下げたいと考えている。その中には、Intel以外の部材メーカーやOEMメーカーの努力が必要な部分もある。そのため、消費電力全体を下げるには、業界全体との協調が必要になる。そのため、ガイドラインとして「Mobility Enabling Program」を打ち出した。この中では、バッテリ駆動時間を延ばすための、多くの研究調査も行なっている。

 例えば、ボルテージレギュレータはノートPCの中で、もっとも非効率な電力消費源のひとつだ。効率的なボルテージレギュレータをデザインすれば、ここでの電力消費をもっと抑えられる。ただし、ボルテージレギュレータは全体の電力消費の小さな部分しか占めていない。しかし、もっとも大きな電力消費源は、なんと言ってもスクリーンだ。そのため、ディスプレイの消費電力を落とすために、多くの試みを行なっている。ノートPCのほかのデバイスについても同様に、研究をしている。

 こうした分野で、我々が行なった試みを、市場やOEMパートナーに提供して、技術の転移を図る。それによって、オーバーオールの消費電力を下げようとしている。

[Q] モバイルPCへの燃料電池の採用の可能性はどう考えるか。

[Chandrasekher氏] テクノロジとしては確かに楽しみだ。燃料電池は、もう20年以上前から非常に将来性があると言われていた。これをノートでも使えるように、研究はしている。実際に、関連企業に投資もしている。ただし、いつ市場に出てくるかを推測するのは非常に難しい。


●モバイル向け機能を満載したBanias

 今回のラウンドテーブルでは、Baniasがこれまで明らかになっている以上に多くのモバイル向け機能を備えていることが明らかになり始めた。例えば、Baniasでは、CPU自体が負荷状況を何らかの形でモニタリングし、それによって電圧や周波数を制御する可能性がある。この方式なら、CPU負荷の上昇時に低レイテンシで追従することが容易になると思われる。

 また、Baniasのクロックゲーティングでは、かなり細かく頻繁に、そして完全にクロック供給を止めるようだ。そのためには、クロックを止めた機能ブロックにクロックを適切なタイミングで再供給するための一種のプレディクション(予測)機能なども必要となってくるはずだ。

 こうした機能を使えば、電力密度を減らすことは可能となる。以前、このコラムで指摘したような電力密度の問題は、ある程度は防ぐことができることになる。ただし、実行するコードによっては、一部の機能ブロックが頻繁に使われ、ダイの一部にホットスポットが発生する可能性はある。

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【4月22日】【海外】Baniasはプロセスシュリンク+マイクロアーキテクチャ拡張版が続けて登場
--IDF-Jラウンドテーブル(1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0422/kaigai01.htm


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(2002年4月23日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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