元麻布春男の週刊PCホットライン

USBサウンドユニット「Sound Blaster Extigy」をテスト


●サウンドカードの現状

 果たしてPCのサウンド機能に対して、どれくらいの機能性や性能が求められるのか。この問いに対する決まりきった答えはおそらくない。どんなPCであろうと(たとえビジネス向けのクライアントPCであろうと)、今やサウンド機能を持たないものなど存在しないことを考えれば、最低限WAVEフォーマットによるサウンドの入出力は必須だと思われる。が、それを超えて、どれくらいのものを求めるかと言われると、個人差が大きいのではないかと思う。

 購入したPCのサウンド機能に飽き足らない場合、最もストレート、あるいはこれまで最も広く使われてきた手法は、サウンドカードを加えることだ。現在PCIバスに対応したサウンドカードは、一般コンシューマー向けのものに絞っても、2,000円程度のものから2万円を超えるものまで、幅広いバリエーションのものが揃う。その中から、自分にあったものを1枚選び、インストールするというのが最もポピュラーなアップグレードである。

 この方法の難点は、PCのケースを開けて拡張カードを加えるという「作業」を要求されること、そして何よりPCIスロットに空きがなければならない、という点にある。ノートPCはもちろん、省スペースデスクトップPCでも、最初からPCIスロットを持たないものもある。PCIスロットがあっても、省スペースタイプでは空きがなかったり、空きスロットがLow Profile専用だったりすると、サウンドカードを加えることができないかもしれない。

 こうした場合にも使えるオプションとして、最近製品が増えているのがUSBを利用したサウンドモジュールだ。PCとの接続はUSBケーブル1本だけとシンプルで、ケースを開ける必要もない。日本で普及しているノートPCでも気軽に使うことが可能だ。また、DVD-ROMドライブとソフトウェアDVDプレーヤーの普及に合わせて、ドルビーデジタルやDTSといった5.1チャンネルサラウンド音声のデコードに対応したものも増えてきている。


●Sound Blaster Extigyの特徴

Sound Blaster Extigy

 このジャンルの新製品として、PC用のサウンド製品の老舗であるクリエイティブメディアが発売したのがSound Blaster Extigyだ(Extigyは同社最新のサウンドカードであるAudigyと、外付けを意味するExternalを合成した造語なのだろう)。

 Extigyとその主要なライバルについて、サポートする機能を表にまとめてみた。すべてに共通するのは、USB接続の音源として、WAVEの入出力(DA/ADコンバータ機能)やMIDIの再生をサポートしていることだが、それ以外の機能では、各製品によってずいぶんとバラつきがあることが分かる。


メーカー名CreativeYAMAHAYAMAHAオンキョーオンキョーアイ・オー・データ機器
製品名ExtigyDP-U50RP-U200SE-U55SEW-U7D2VOX
メーカー希望小売価格オープン38,000円60,000円22,500円72,800円19,800円
実売価格23,000円前後2万円前後5万円弱15,000円前後5万円強18,000円前後
USB接続
DA/ADコンバータ
EAX対応×××××
オーディオアンプ××○(5ch)※1××※2×
アナログ出力(ラインレベル)5.1ch2ch2.1ch ※32ch5.1ch2ch
DolbyDigitalデコード(5.1ch)※4×××
DolbyDigitalデコード(仮想)※4××××
DolbyDigitalパススルー ※5×××××
DTSデコード(5.1ch)※4××××
DTSデコード(仮想) ※4××××
DTSパススルー※5×××××
独自のサラウンド音場の提供××
MIDI In/Out×××※6××
付属スピーカー× ※7×××○(5.1ch)×
※1 サブウーファーはアンプ内蔵型を利用する
※2 アンプ内蔵型スピーカーが付属
※3 ステレオ+サブウーファーチャンネル
※4 ロゴのあるもののみ
※5 2チャンネルステレオをサポートした光デジタル入出力は全機種がサポートする
※6 MIDI In/OutをサポートしたSE-U77もあるが生産完了
※7 Creative Inspire 5.1 5300スピーカー(別売、実売価格15,000円前後)の組合せを推奨

 Extigyの特徴の1つは、オーディオアンプ機能を内蔵せず、アンプ内蔵型のスピーカーを利用することを前提としているため、小型/軽量であることだ。Extigyのパッケージを持つと、意外とずっしりした印象を受けるが、それはACアダプタなどが含まれているため。本体そのものはプラスチックの筐体を利用しているせいもあって、かなり軽い。設置は縦置き、横置きのいずれも可能で、縦置き用の「足」も付属する。

 前面パネルに用意されているのは電源スイッチ、CMSSスイッチ(後述)、光デジタル入出力コネクタ、ヘッドホン出力、マイク/ライン入力、ボリューム(出力およびマイク入力)といったコネクタ類。背面パネルに用意されている5.1チャネル分のアナログ出力コネクタ(すべてステレオミニプラグ)、同軸デジタル入出力、MIDI In/Out、USBコネクタ、電源コネクタと合わせ、多彩な入出力機能を提供する。特にMIDI In/Outをサポートしたものは、このクラスとしては珍しい部類に入る。

Sound Blaster Extigy前面 Sound Blaster Extigy背面

 以前は、PCゲームの多くがMIDIを音楽に利用しており、サウンドカードの内蔵MIDI音源に飽き足らないユーザーが外部MIDI機器を接続することが少なくなかった。しかし、CPU性能の向上によるソフトウェアMIDIの進歩、ゲームの音楽そのものが、再生音質を音源品質に依存するMIDIからWAVEやMP3のようなサンプリング系のものに移行してしまったため、コンシューマー向けの製品ではMIDIの重要性は以前ほどではなくなっている。それでも、AudigyもMIDI In/Outをサポートしていることを考えると、同社製品の顧客にはMIDI機器を利用するユーザーが多いのか、あるいはMIDI機器を利用するようなユーザー層を顧客と考えているのだろう。

 機能面でのExtigyの特徴は、24bit/96KHzのサンプリングのサポート、EAX Advanced HDのサポート、ドルビーデジタルのデコードなど、外付けのモジュールでありながら、Audigyカードに近い機能をサポートしている点にある。

 ただ、サウンドカードであるAudigyには、EAX Advanced HDを利用して音場の詳細なコントロールを行なうソフトウェア(Audigyチップのコントロールを行なうソフトウェア)が付属するのに対し、このExdigyには相当するソフトウェアが添付されておらず(劇場や教会、リビングルームなどプリセットのサラウンド音場を利用することは可能)、Audigyほどの柔軟性は備えていない(Extigyは、名前の親和性にもかかわらず、Audigyチップを採用しているわけではない。少なくともドルビーデジタルのデコードにはZoran製のDSPチップを用いており、これが主役だと思われるが、Creative製のASICもDSP機能を内蔵している可能性がある)。それでも、EAXをサポートしたUSBの外付けサウンドモジュールは、現時点ではExtigyだけであり、ゲームとの親和性の高いモジュールとは言えるだろう。



●はっきりしないCMSSの機能

 前面パネルの項で触れたCMSSは、Creative Multi-Speaker Surroundの略。モノラルやステレオのサウンドソースを、擬似的に5.1チャンネルの3D音場に変換するものだ。本来であればステレオのサウンドソースを再生すると、前方の2本のスピーカー(とサブウーファー)からしか音が出てこないわけだが、CMSSによりすべてのスピーカーから音が出るようになる。パッケージやマニュアルに書かれているのはここまでで、書かれている効果については確認できたのだが、どうも実際に使っていると、CMSSの機能はそれだけではないような気がしてくる。

 筆者が気が付いたのは、ドルビーデジタル 5.1チャンネルに対応したDVDをヘッドフォンで再生しているとき、CMSSをオンにするかオフにするかで、明らかに音場の再生が異なることである(CMSSをオンにすることで、明らかに音場再生の忠実度が向上する)。CMSSオフでは、通常のステレオのように音場は頭の中、2つの耳の間に固定されるが、CMSSをオンにするとドルビーヘッドフォン機能を利用した時のように、音場が後方などにも広がる。もちろんCMSSには音質上の副作用もあるわけだが、DVDのように映像を伴う作品の再生では、おそらくメリットの方が大きい。にもかかわらず、こうした機能についてマニュアル(PDFで提供される)やパッケージでは何も触れられていないため、ハッキリとしたことが言えないのが残念だ。

 このCMSSにも関連してハッキリしないのは、5.1チャンネル対応のスピーカーを利用しない(ヘッドフォンや2スピーカーの)場合、どのようなサラウンド効果が期待できるのか、ということだ。添付のミキサーアプレットには、スピーカーの種類(2スピーカー、4スピーカー、6スピーカー、自動など)を指定する機能があるものの、それぞれでどのような仮想音場が提供されるのかは、ハッキリとしない。たとえば2スピーカー使用時にVirtual ドルビーデジタル互換の仮想音場を提供する機能はない(少なくともそれを示すロゴは本製品に添付されていない)ようなのだが、本当にそういい切っていいのか、筆者は自信がない(Extigyがドルビーデジタルのデコードに用いているZoran製のDSPは、DTSには対応していないものの、Virtual Dolby DigitalやDolbyヘッドフォンの機能はサポート可能に思える)。


●コンセプトがわかりやすいのはスピーカーとのセット販売だが……

Inspire 5.1 5300

 ExtigyではInspire 5.1 5300スピーカー(アナログ接続による5.1チャンネルスピーカー)との組み合せが推奨されているものの、たとえばSEW-U7のようにスピーカーが標準添付されているわけではない(5.1チャンネルのスピーカーが付属しているSEW-U7なら、仮想サラウンドモードをサポートしていなくても納得できる)。当然、2スピーカーが接続されることもあると思うのだが、その場合にどのような機能を提供できるのかは明記されていない。

 また、Extigyのデジタル出力はドルビーデジタルやDTSのパススルーをサポートしていない。同社の「Inspire 5.1 Digital 5700」、「DeskTop Theater PlayWorks3500」に関しては、スピーカー側に同梱するDigital DIN変換ケーブルを使用し、Extigy 背面の同軸ミニデジタル出力に接続すれば、Extigy 側の「ドルビーデジタルデコード」によって、「5.1ch 出力」が可能になるのだが、このあたりもわかりにくいところだ。

 というわけで、Extigyについては、機能的にハッキリしない部分が少なくない。そのせいもあって、現時点の販売価格も若干割高に感じられる(これは、発売直後であることも影響しているだろうが)。機能的に一番近いのは、オンキョーのSEW-U7のアンプ部だと思われるが、スピーカーをセットにしたSEW-U7の方が、何ができるのかという点でメッセージが分かりやすい。手持ちのスピーカーを活用可能な点で、スピーカーとセットになっていないExtigyにも別の利点があると思うのだが、そうした汎用性を打ち出すのなら、もっとドキュメント(マニュアルのみならずカタログなども)の内容を充実させるべきではないだろうか。また、現時点で購入する場合は、同社製のスピーカーとの組み合わせを前提としてシステムを考えるべきだろう。

□クリエイティブメディアのホームページ
http://japan.creative.com/
□Extigy製品情報
http://japan.creative.com/soundblaster/products/extigy/welcome.html
□関連記事
【1月11日】クリエイティブ、「Audigy」と同等の機能を持った
USBサウンドユニット「Sound Blaster Extigy」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0111/creative.htm

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(2002年1月25日)

[Text by 元麻布春男]


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